2013年の実質成長率は市場マネタリストとケインジアンのどちらの主張を崩したのか?

2013年4月28日のエントリクルーグマンは、ゼロ金利下の金融政策では財政緊縮策の穴埋めはできず、市場マネタリストの想定通りには物事は進展していない、と書いた。それに対しスコット・サムナーが、2013年の成長率が高かったことを基に、クルーグマンケインジアンは間違っていた、と2年越しの反論をeconlogで展開している。


年次ベースの成長率は、2012年が2.3%で、2013年が2.2%なので、2013年は前年より僅かながら減速したように思われる。しかしサムナーに言わせれば、年内に発生したショックの影響を避けるため、ここは第4四半期から第4四半期への成長率で考えるべき、という。その計測方法では2012年の成長率は1.67%だったのに対し、緊縮のあった2013年は倍近くの3.13%となる。


サムナーはこの数字を、(ここで紹介した)サックスのProject Syndicate論説に反論したサイモン・レン−ルイスのエントリ横から批判する中で挙げたのだが、レン−ルイスの「他のこと(=財政緊縮の有無以外のこと)も起きる(other stuff happens)」という言葉を引用し、米国で2013年に起きた「他のこと」とはまさしく積極的な金融緩和策だったのだ、と述べている*1


当然ながらレン−ルイスはサムナーの批判に反発し、サムナーの考え方を「信仰に基づく経済学(faith based macroeconomics)」と斬って捨てた*2。レン−ルイスが特に反発したのは、サムナーが「レン−ルイスはGDP成長率のデータも間違えた(Simon Wren-Lewis also gets the GDP growth data wrong)」と書いたことについてで、間違いというのは通常はExcelの操作ミスや古いデータを使ったことを指すが、サムナーはそうした通常の意味でこの言葉を用いていない、と批判した。


その点は、ここクルーグマンと共にサムナーが槍玉に挙げたマイク・コンツァルも指摘しており*3、間違いも何も、計測方法が2つあるだけなのだ、と述べている。そしてサムナーの採った計測方法を前後に1期ずらし、2013年第1四半期から2014年第1四半期、および2012年第3四半期から2013年第3四半期の成長率を見ると、それぞれ1.9%と2.7%になる(2012年第1四半期から2013年第1四半期は2.1%)、とグラフを描きながら指摘し、2013年に成長率が加速したというサムナーの主張の根拠が危ういものであることを示した*4

こうした批判に対しサムナーは、第4四半期ベースの伸びを過去に遡り、それらと比較すると2013年の数字はやはり高い、と主張している


成長率の数字と共にもう一つ議論の的となったのが、米国の財政緊縮はどの程度であり、どの程度成長率を押し下げたのか、という点である。レン−ルイスは(ここで紹介したワルドマンと同様に)実質政府支出の図を示し、目立った落ち込みが無いことを指摘している。一方、直近のエントリでサムナーは、2012年8月時点のCBO予測を引用しているが、そこに挙げられた数字は以下の通りである。

財政赤字 成長率 2013年後半の失業率
ベースライン 6410億ドル ▲0.5% 約9%
(緊縮策の無い)代替シナリオ 1兆ドル 1.7% 約8%

ここで成長率は2012年第4四半期から2013年第4四半期ベースである。ベースラインのマイナス0.5%成長は景気後退と見做されるであろう、と引用されたCBOの文章では述べられている。サムナーは、実際の2013年の財政赤字は6800億ドルで、2012年(1兆890億ドル)からの縮小幅は予想よりおよそ10%少ない4000億ドルであった、と指摘している。とは言え、実際の経済は緊縮策が無い想定の代替シナリオよりさらに良かった(成長率は3.1%、失業率は6.7%)ので、ケインジアンの予測が外れたことに変わりはない、というのがサムナーの指摘である。これは、2009年の失業率が、財政刺激策の無いCBO予測よりさらに悪化したのと並んで、ケインジアンの大いなる実験が惨めな失敗に終わったケースだ、とサムナーは言う。


なお、コンツァルも先のエントリの後半で、2013/2/26のバーナンキ講演経由でCBOの数字にリンクしているが、そちらは2013年2月時点の数字になっている*5。そこでの2013年の成長率予測は、暦年ベース、第4四半期から第4四半期ベース共に1.4%であり*6、緊縮政策の影響は1.5%となっている。つまり、緊縮策なかりせば成長率は2.9%という予測だったわけだ。これは8月時点より1.2ポイントの上方修正である。ただしベースラインの財政赤字の予測は8450億ドルで、8月時点より絶対額が約2000億ドル増えている。従って、緊縮を織り込んだ成長率が8月時点より1.9ポイント高まったのは、経済全体の見通しの上方修正もさることながら、財政赤字の見通しを変えたことも影響していたように見受けられる。そして結果的には、実際の財政赤字に近かったのはむしろサムナーの引用した半年前の数字だったことになる。

*1:一方、英国の数年に亘る低成長率は生産性という供給側の問題だった、とも述べている。

*2:タイラー・コーエンもサムナーを肯定的に引用したということで併せて斬り捨てている。

*3:ただし時系列的にはコンツァルのエントリの方が先。

*4:ちなみに同エントリのコメント欄で小生が指摘したように、第3の計測方法として、日本のエコノミストが良く使うゲタ抜きの年次成長率を見ると、2012年は1.2%、2013年は1.8%となり、サムナーの挙げた数字ほどではないが、それなりに加速していた、という結果が得られる。

*5:コンツァルのエントリの後半はサックスへの反論に充てられており、CBOの数字のほか、ムーディーズEPIの数字にもリンクしている。

*6:暦年ベースは全体資料のp.64のTable B-1、第4四半期から第4四半期ベースはp.5のSummary Table 2に記載されている。ちなみにp.65のTable B-2にはFiscal Yearベースも記載されているが、それは1.5%となっている。