マンキューがブログで、「四半世紀後、依然として重要で、おそらくはより重要になっている(Still relevant, maybe more relevant, after a quarter century.)」というコメントを添えて、MarketWatchの記事(注:無料閲覧回数に上限あり)にリンクしている。同記事では、マンキューがローレンス・ボール(Laurence M. Ball)、ダグラス・エルメンドルフ(Douglas W. Elmendorf)が1995年に共著した論文「The Deficit Gamble」が取り上げられている。以下は記事の概要。
- 1995年の論文では、正しい条件の下では政府は無限に財政赤字を計上して債務を借り換え続けることができ、債務を実際に返済することが無いという賭けができる、としている。
- 四半世紀が経過し、連邦債務が何十兆ドルと積み上げられた後、パンデミック後の財政刺激策についてワシントンの議論が喧しくなっている中、論文で提起された可能性が実地で検証されようとしている。しかし論文の著者の一人は、政策当局者はダウンサイドリスクに目を瞑るべきではない、と言う。
- 「世界は大いなる不確実性に満ちており、いかなる政策を研究する時でも、どのようにうまくいくか、だけでなく、どのようにまずいことになり得るか、も常に考えるよう心掛けるべき」とマンキューは言う。
- どれだけ早期に財政を均衡するかについて議論された1995年当時や、利払いを除く財政の均衡を求めたオバマ政権当時と違い、バイデン政権は財政政策の目標を未だ明確化していない。その代わり、まずは2番目に大きな財政刺激策に取り組み、次いで2つの何兆ドルにも上るインフラや社会支出を検討している。
- 1995年の論文では、金利によって決定される政府債務の平均利回りが平均経済成長率より低い限り、政府債務は無限に借り換えることができ、返済のために増税が必要になる確率は1割か2割、としている。失敗の可能性があるということで、著者たちはそれを「ポンツィスキーム」と区別するために「ポンツィギャンブル」と呼んだ。
- 「財政赤字はギャンブルである。ある経路が実現した場合には将来世代に大いなる負担を課すことになる、という点でそれは無分別な政策である。ただ、大抵の経路では、将来への影響は良性である。」と論文には記述されている。「政府の財政赤字は、自宅保有者が火災保険を購入しない、という決定により似ている。その政策は、生じ得る悪影響が大きいという点で勧められるものではないが、そうした悪影響の発生確率は低い。実際のところ、発生確率の低い悪い結果が生じることがなければ、そうした政策は生活水準の向上をもたらす。」
- 短期的には、経済は2020年のコロナ禍による減速から力強い回復を続けるとみられる。消費者のペントアップ需要や、1.9兆ドルの財政刺激策がそれを支える。しかしマンキューは、気候変動や生産性や技術発達のペースといった長期的な問題が、今後の成長の力強さを不透明にしている、と言う。
- マンキューはまた、企業の市場支配力が今や非常に強くなっていて、独占企業に近い状態になっているため、金利が人為的に低くなっているのかもしれない、と言う。この理論をマンキューはボールと一緒に最近の論文で追究した*2。独占企業では消費者物価への影響に焦点が当たりがちだが、マンキューは「その一つの結果として投入の購買量が少なくなる」と言う。「それによって賃金と金利の要素価格が競争市場に比べて抑えられる」と彼は言う。
- 現在の金利がなぜ非常に低いのか、および、今後も長期に亘って低くとどまるかどうか、を解明することが、財政赤字ギャンブルがペイオフする可能性が高いという1995年の論文の推定が依然として正しいかどうかを把握する鍵になる、とマンキューは言う。米政府債務額は増加したが、それを維持する費用は実際のところ低下した、と彼は指摘する。
- 「この論文を今日書くならば、どの閾値に着目するのが良いかもう少し真面目に考える必要がある。債務GDP比率か、それとも債務サービスGDP比率か? その問題に経済学は明確な回答を持ち合わせているとは思われない」と彼は言う。