サマーズ対ブランシャール:今後の金利を巡る議論・その4

サマーズとブランシャールの対談からの議論の引用のラスト。最後は、司会のポーゼンからの求めに応じて、r-gと財政政策について論じている。

【ブランシャール】

  • プラスのr-gは、動学がかなり思わしくなくなったことを意味している。財政政策発動の余地は小さくなる。
  • たとえr-gが今はマイナスだとしても、将来恒久的に符号が変わる可能性があるならば、それを考慮に入れ、今は良い時だが今後は厳しくなる、と認識することになる。それが意味するのは、財政政策にはかなり慎重になるべき、ということだ。平凡な回答だが、これは正しい回答だと思う。


【サマーズ】

  • 数年前、コロナ禍後、バイデン政権成立前に、人々は2024年までゼロ金利が続くと考えていたが、その時に自分とジェイソン・ファーマンは、連邦負債の実質金利負担がGDPの2%以下で、かつ、急速に増加していないならば、それなりに良いところにいる、と論じた*1
  • もし実質金利負担がGDPの2%を超えた、ないしその方向に向かっているならば、大いに憂うべき。この基準はgよりもrに基づいているので、正確な基準ではなく、米国の状況に応じたものと言える。その基準に照らせば、米国が1.5%の実質金利と130%の債務GDP比率に向かっているならば、対処すべき重大な問題が待ち構えている、ということになる。
  • ということで、裏付けのない支出をするならば、ほぼ間違いなく過ちを犯している、と私は思う。予算において、予見されていない平均的に悪しき出来事の発生に備えていないならば、それは間違いである。そうした出来事は歳出の増加や歳入の喪失を招く。我々は、機会ごとに、財政赤字を増やすよりも減らすべきである。
  • 2017年時点の自分は、そうしたことをすべて考慮しても、我々は長期停滞にいるので拡張的な財政政策が望ましい、と言っただろう。次の5年については、そうしたことをすべて考慮して、財政拡張を抑えるのが望ましい、と言いたい。それ以降については分からないが、方向性は変わらないのではないかと思う。


【ブランシャール】

  • コメントを2つ。サマーズ=ファーマン提案は良いと思う。動学方程式を考える場合、r-gを債務GDP比率に乗じたものが重要になる。それを賄うことができれば、即ち基礎的財政収支を保っていれば、問題ない。
  • ただ問題は、rは年ごとに大きく変動するため、この変数には、ある年は良いように見えてもその後は良くなくなる、という可能性があること。債務水準を見るよりもこちらの変数を見る方が良いと思うが、変動が大きいので使い方が難しい、という難点がある。


【サマーズ】

  • ブランシャールの言う金利の変動性については、借り入れが長期になると問題が少なくなる、という側面がある。借り入れコストを固定化できるからだ。
  • そして私に言わせれば、コロナ禍の最初の3か月のQEは大きな間違いだったと思う。世の中の賢い企業財務担当者が皆、債務を長期化して低い長期金利を固定化していた時に、米国や他の多くの国の政府は、事実上、長期債務を買い戻して短期債務を発行していた。時価評価のコストは1兆ドル近くになっているのではないかと思う。こうした過ちは繰り返すべきではない。


【ブランシャール】


最後にブランシャールが、ここでサマーズに一蹴されていったん引き下がっていたインフレ目標引き上げ論を最後っ屁のようにぶちこんできたのが面白いと言えば面白い。

*1:cf. これ