サマーズ対ブランシャール:今後の金利を巡る議論・その2

前回エントリの続きとして、サマーズとブランシャールの対談から、グローバル化ないしその逆転現象の中立金利への影響に関する議論を紹介してみる。

  • サマーズ:これまで米国に焦点を当てた話をしてきたが、それによって視聴者に少し誤解を与えたかもしれない。実質金利はグローバルな事象であり、そのことで両者の見解は一致していると思う。ただ、資本の輸入国と輸出国では実質金利に乖離が生じる。仮に米国が閉鎖経済ならば、海外に需要が逃げていかないので、実質中立金利は高くなる。
  • ポーゼン(司会者)&ブランシャール:また、閉鎖経済ならば、現在大量に流入している海外からの資本も得られない。
  • ブランシャール:(世界のR*はどの程度米国や中国の動向によって決まるか、という視聴者からの質問に対し)世界市場で決まる。米、EU、日本が閉鎖経済ならば、R*は全く違った経路を辿るだろう。資本の流れが各国のR*をお互いに近付けているのである。数字を見ると、世界は完全にではないものの、かなり統合されている。日本のR*は他国よりも低いといった話はあるが、それでもグローバルな力が働いているのは間違いない。
  • サマーズ:(安全保障上の理由などでデグローバリゼーションが進行すると、どの程度R*に影響するか、という視聴者からの質問に対し)コロナ禍直前にŁukasz Rachelと中立金利などについての論文を書いたが*1、その時に、発展途上国から先進国への資本流入はトータルではゼロと有意に異ならないことを見い出した。我々が中国からデグローバラナイズしたとしても、同国は資本の主要な源泉ではない。バーナンキの言う貯蓄飽和がアジアの恒常的な現象で、資本を我々に輸出し、そしてそれが無くなった、ということならば、そのことは中立金利を押し上げる重要な経路となっただろうが、私はそれが大きな経路だったとは思わない。中国の経常黒字はGDPの10%から数年前に0%近くに落ちている。ということで、デグローバリゼーションの影響で資本流入に大きな影響はないだろう、というのが私の回答だ。欧州や日本との間で大きなデグローバリゼーションが起きるわけではないからだ。先ほど話のあったリショアリングで投資が増えて中立金利を押し上げる効果はあるだろうが、それは大きなものではない。
  • ブランシャール:(同じ質問への回答として)一言付け加えるならば、デグローバリゼーションには財のデグローバリゼーションと金融部門のデグローバリゼーションがあるが、大きなのは財のデグローバリゼーションだろう。ただ、輸出入の減少は、純輸出や資本収支に明確な含意を持たない。従って、それが今後のR*を大きく左右する要因になるとは思わない。

*1:cf. ここ