税収弾性値の一つの試算・補足

昨日のエントリに対し、シェイブテイルさんからブコメでデフレ期とインフレ期を分けないと意味が無いのでは、というご指摘を頂いた。


そこで試しに、1997〜2010年度に期間を絞って回帰を行ってみると(=昨日リンクしたシェイブテイルさんのエントリのグラフで緑線で描かれていた期間)、以下のようになる。

説明変数 係数 t値
切片 -0.319 0.33
名目GDP成長率 2.764 3.26
GDPギャップ前年差 0.963 1.40

確かに名目GDP成長率の係数は1.014から2.764に増加する。ただ、その半面、GDPギャップ前年差の係数は1.766から0.963に減少し、有意でなくなる。


なお、デフレ期をいつからいつまでとして定義するかは検討の余地がある。1995年度にはGDPデフレータがマイナスになり、名実逆転が始まっている、その一方、2008〜2009年にはリーマンショックで税収も名目GDPも大きく落ち込んでおり、デフレ期であるにしても、いわば異常値に近いデータになっている。そこで、期間を少し変えて1995〜2007年度で回帰すると以下のようになる。

説明変数 係数 t値
切片 -0.442 -0.38
名目GDP成長率 0.958 0.58
GDPギャップ前年差 2.669 1.44

今度は名目GDP成長率の係数が0.958まで下がり、GDPギャップ前年差の係数が2.669まで上がる。ただし、いずれの係数も有意ではない。


このように税収弾性値の推計は期間に対する鋭敏性が高く、短い期間で安定した値を得るのは困難である。このことは、以下のように推計終了期を2013年度に固定して開始期を1年ずつずらしたり、あるいは、推計開始期を1981年度に固定して終了期を1年ずつずらしたりした場合に、期間が短くなるほど名目GDP成長率の係数が大きくなり、GDPギャップ前年差が小さくなることからも伺える(以下のグラフでは昨日エントリの見立てに従い、名目GDP成長率の係数を長期弾性値、GDPギャップ前年差の係数を短期弾性値と表記した)。

即ち、推計期間が短くなると長期と短期の弾性値の識別が困難になり、短期の傾向を長期の傾向と見誤る結果、長期の弾性値を過大に、短期の弾性値を過小に推計する傾向が伺える。また、推計期間が短くなると、上述のリーマンショックのような異常値に左右される危険性も高まる。従って、デフレ期はインフレ期より税収弾性値が高くなるという推定は、期間を短くしたことによる係数の不安定化を誤認した可能性が否定できないように思われる。