税収弾性値の一つの試算

日本の税収弾性値に関して様々な議論がある。ある人は1を少し超える程度だと言い、ある人は3〜4に達する、と言う。前者の見方をする人は、後者の見方をする人に対し、長期と短期の弾性値の区別が付いていない(例:ここここ)、もしくは平均概念と限界概念の区別が付いていない(例:ここ)、と批判し、後者の見方をする人は、前者の見方をする人に対し、データを無視している、と言う(例:ここ)。


ただ、単純に考えれば、景気回復局面で名目GDPの伸び以上に税収が伸びる、あるいは、景気後退局面で名目GDPの落ち込み以上に税収が落ち込むことはあるのではないか、と思われる。その場合、こちらで紹介されている図のように、長期と短期の弾性値が合成された形で名目GDPに税収が反応する形になるだろう。


その時に、短期と長期の弾性値をうまく分解する方法はあるだろうか? 一つ手掛かりとして考えられるのは、GDPギャップである。即ち、GDPギャップがプラス方向に動く局面を上述の景気回復期、GDPギャップがマイナス方向に動く局面を上述の景気後退局面に見立てて、税収と名目GDP成長率の回帰分析にGDPギャップの変化も説明変数として加えてやれば、長期と短期の弾性値がうまく分離できるのではないか、と考えられる。


以下はその発想を基に実際に重回帰分析を行った結果である*1。ここで被説明変数は税収の前年比*2、説明変数は名目GDP成長率*3GDPギャップ*4の前年差で、期間は1981〜2013年度である。自由度調整済み決定係数は0.658であった。

説明変数 係数 t値
切片 -0.419 -0.48
名目GDP成長率 1.014 3.88
GDPギャップ前年差 1.766 3.58


この結果によれば、長期の弾性値はほぼ1となる。同時に、GDPギャップが前年に比べて1ポイント改善すれば、税収の伸び率は1.766ポイント高まることになる。従って、名目GDP成長率の伸びが1%ポイント高まり、それがそのまま実質GDPの伸びに1対1で反映される形でGDPギャップの改善につながれば*5、税収の伸び率はおよそ2.8%ポイント高まることになる。

*1:ちなみに、ぐぐってみると、GDPギャップを手掛かりに税収弾性値の分析を行った研究は既に存在する。しかしもちろん、この論文のように税収の項目別に分析を行って積み重ねるという精緻な研究は本ブログの範囲を大きく超えるので、ここではあくまでも単純な重回帰の結果を提示する。

*2:税収は財務省HPの予算・決算 > 関連資料・データ > 財政統計(予算決算等データ) > 統計表一覧の「第4表 昭和57年度以降一般会計歳入主要科目別決算」を使用(ただし1980-81年度はこちらの資料の決算額、2013年度は年度別決算のデータを用いた)。

*3:1995年以降は通常の直近の統計表データ、1994年以前は簡易遡及データを利用。

*4:内閣府のデータは過去があまり取れないので、IMFのデータを利用した。ただしこれは年度値ではなく暦年値。

*5:上記回帰で内需デフレータ伸び率も説明変数に追加してみたが、有意にならなかったので、ここではその結果は省略している。