名目GDPベースのテイラールール・その2

昨日のエントリでは、サンフランシスコFRBのルードブッシュのテイラールールを日本に適用し、合わせて名目GDPベースのテイラールールの定義を試みてみた。

今日は、そこで定義した名目GDPベースのテイラールールを、逆に米国に適用してみる。


下図は、ルードブッシュのデータに示されているFFレート(FFR;2009年以降はFOMC予測ベース)、ルードブッシュ版テイラールールの金利(Rule)、および名目GDPベースの金利(ngdp)を並べて描画したものである。

ここで、名目GDPベースの金利は昨日と同じ下式を使用した。

 政策金利 = 名目成長率 − 2×(失業率−NAIRU)

名目成長率はBEAから取得した四半期ベース名目GDPの前年同期比とした。ただし、2009年第3四半期以降の名目成長率はCBO予測を用いた*1。また、失業率とNAIRUは予測値も含めてルードブッシュのデータをそのまま用いた。


この図を見ると、名目GDPを使用した目標金利では、ルードブッシュ式や実際のFFレートに比べ、景気後退期ではより迅速な利下げ、景気上昇期ではより迅速な利上げを示唆することが分かる。


なお、上の式は、天下り式に名目GDPをルードブッシュ式に当てはめたものである。実際のデータから改めて回帰式を導くとどうなるだろうか? そう考えて、ルードブッシュと同じ期間のデータで、インフレ率だけを名目成長率に置き換えて推計を行なってみた結果得られたのが下式である。

 政策金利 = 0.214×名目成長率 − 1.714×(失業率−NAIRU) + 3.951

名目成長率、失業率−NAIRU、定数項のt値はそれぞれ1.6、-6.9、5.1で、名目成長率は10%水準でも有意ではない。自由度調整済み決定係数は0.489である。このように推計精度が高いとは言えないが、取りあえずこの式から導かれる金利を図に追加してみた(下図のngdp-reg)。

これを見ると、回帰を用いた名目GDPベースの金利は、80年代終わりから90年代初めにかけては実際の金利より低め、90年代は平均的には実際の金利に近い水準であったことが分かる。注目すべきは、2002年から2003年にかけては、他の3つのどの金利よりも高い水準を指し示していた点である。4%近い高い定数項が下支えした結果であるが、この時期の政策金利が低すぎたという昨今の批判を鑑みると興味深い。


ちなみに、ここで紹介したテイラーのFRB批判では、彼が自分のテイラールールを基にかくあるべしと考えたこの時期の金利が示されている。それを上図に(目の子で)挿入すると以下のようになる。

黒い点線がテイラーの示した金利である。2003年以降の名目GDP回帰ベースの金利は、ほぼテイラーの想定通りの動きとなっている。
また、2009年後半以降の予測期間で最もマイナス幅が小さいのもこの金利である。その点でも、この金利の動きはここで紹介したテイラーの考えに最も近いと言える。

*1:ただ、CBOは四半期ベースの予測は発表していない上、7/31発表のNIPAの大幅改定の前の値をベースにしているようなので、第4四半期から第4四半期の伸び率(2009=0.6%、2010=3.7%、2011=4.1%)のみ用いて、それ以外の四半期の値は線形補間で求めた(注:GDPの実数値ではなく伸び率そのものを単純に線形補間)。