名目GDPベースのテイラールール

一昨日、2つのテイラールールの話を紹介したが、手すさびに、そのうちの一つを日本のデータに当てはめてみた。

使った式は、本家ではなくルードブッシュの方。ただし、クルーグマン10/11のエントリで導入した係数をさらに丸めたバージョンを使用した。

 政策金利 = 1.5×インフレ率 − 2×(失業率−NAIRU) + 2

インフレ率は民間最終消費支出デフレータの前年同期比、失業率は季節調整済みの各四半期の期末値を用いた。NAIRUはkuma_assetさんの推計を借用し(かつ丸めて)3.5%とした。
それらを上式に当てはめ、オーバーナイト金利と並べて描画したのが下図である。

(オーバーナイト金利日本銀行時系列統計データ検索サイトで「各種マーケット関連統計(ST)」から「無担レート・O/N 月平均/金利(コード=ST'STRACLUCON)」を期種変換=平均で四半期ベースで取得した。ただし1985年第2四半期以前はデータが無いので、代わりに「有担レート・翌日物(a) 月平均(b)/金利(コード=ST'STRACLCOON)」を用いた)


これを見ると、1998年第1四半期以前は、ルードブッシュの式ではむしろオーバーナイト金利より高い金利を指し示している。しかし、1999年から2000年代半ばまでは継続してマイナスとなっており、この時期にはゼロ金利でも緩和不十分だったことが分かる。その後は、2006年の量的緩和解除と軌を一にするようにしてルードブッシュ金利も上昇したが、今年に入って再びマイナスに転落している。
このように、ルードブッシュ版テイラールールは、(あくまでも米国のデータから推計した式なので)厳密に定量的に使うにはやや難があるが、大雑把な定性的傾向を見るのには日本でも参考になりそうである。


なお、テイラールールを取り上げたデビッド・ベックワースのブログエントリのコメント欄で、インフレ率の代わりに名目成長率を入れてはどうか、という意見があり、ベックワースも、アタナシオス・オルファニデス(Athanasios Orphanides;現キプロス中銀総裁)の論文を引きながら、それは面白い、と応じている。
中銀はインフレ率の代わりに名目GDP成長率を政策目標とすべき、というのは、当ブログでたびたび取り上げているスコット・サムナー・ベントレー大学教授の主張であり、小生も賛同するところである。そこで、上図に以下の式のグラフも追加してみた。

 政策金利 = 名目成長率 − 2×(失業率−NAIRU)

これは、失業率がNAIRUを達成したら、名目成長率と同程度の政策金利を維持する、という政策を表す式である。つまり、その場合、動学的効率性を満たす下限金利政策金利を持ってくることになる。

(名目成長率は前年同期比を使用)


この図を見ると、名目GDPを政策目標に入れた場合、バブル期の金利は(振れは大きいものの)ルードブッシュ式とほぼ同じ水準にあるが、バブル崩壊後は、より素早い金融緩和を示唆していることが分かる。また、93年以降はほぼ一貫してマイナス金利を示唆していたこと、および今年に入ってからはその値が-10%を超えていることが分かる。こうした点では、ルードブッシュ式に比べ、定量面でも示唆に富んでいると言えそうである。


ちなみに、コールレート政策金利政策金利となったのは1995年以降のことで、それまでは政策金利といえば公定歩合(現・基準割引率および基準貸付利率)のことであった。そこで、上図にさらに公定歩合を足してみたのが下図である。

公定歩合日本銀行時系列統計データ検索サイトで「日本銀行関連(BJ)」から「基準割引率および基準貸付利率(コード=BJ'MADR1M)」を期種変換=平均で四半期ベースで取得した)


政策金利時代の公定歩合コールレートより低い水準に保たれていたが、名目GDPを考慮した目標金利は、1991年後半に既にその水準を下回っている。バブル期の公定歩合が低すぎたことと相俟って、この時期の金融政策の問題点を指し示していると言えよう。