まともに考えると、国の経済がこんなに厳しい状況ならば、ありとあらゆる経済政策を動員するのが当たり前だ。それにもかかわらず、「今の不幸を招いたのは外需」「外需に頼る経済構造が間違いだった」と、輸出依存を悪とする「外需犯人説」を唱えている。
しかし、よく考えてほしい。トヨタ自動車における全世界の販売台数のうち国内が占める割合はわずか1割で、残り9割は国外での販売売上だ。つまり、海外での売り上げがトヨタ自動車の売り上げと利益をつくり、それによって日本に莫大な法人税が払われてきたといえる。
にも関わらず、外需を切り捨て内需を叫ぶのはおかしい。さらに、過去のGDPにおける内需と外需の寄与度を見ても、外需が落ちると絶対内需が落ちることは明らかである。
このことからも、「内需中心の経済は善で、輸出に依存する経済は悪だ」という考え方は大間違いとわかるだろう。もはや国内の狭い部分しか知らない「村社会」の論理である。説得力を持って外需を否定する理由があるのならわかるが、民主党がいう「内需オンリー」の政策を行う理由付けには、全く説得力がない。
日本人にとって製造業は、世界で圧倒的な競争力を持っている産業だ。「欧米のバブル経済が一度に崩れる」という100年に1度あるかないかという不幸が偶さか起こったからといって、日本の製造業が持つ本質的な競争力を否定されたと考える必要もなければ、自らそれを否定する必要もない。
http://diamond.jp/series/dol_report/10023/?page=2
正直なところ、今まで財部氏の発言に個人的に共感した記憶はあまり無いのだが、上の発言は大いに共鳴した。というのは、小生がここで書いた批判と相通ずる話だからである(…財部氏は民主党、小生は日本の経済学者、と批判の対象は違うが)。
ただ、付け加えるならば、輸出主導で00年代に経済成長したと言っても、金額ベースで見ると、その輸出の伸びは実は輸入価格の高騰でほぼ相殺されてしまっている。そのことは本ブログで何度も指摘した(ここ、ここ、ここ)。
とはいうものの、そうした外需が一方で国内の設備投資の一つの誘因になったということであろうことは、このエントリの窯*1の比喩で表現したとおりである(その点については同エントリや他のエントリのコメンターの方々にも指摘いただいた)。従って、内需と外需を切り離して後者だけを悪者視することの愚を説いた点においても、財部氏の上の言説に大いに賛同したい。
あと、もう一点、留保条件染みたことを付け加えるならば、製造業の持つ競争力を卑下する必要はないというのもその通りだとは思うが、池田信夫氏が指摘するように、今後伸びていく需要についてはその高品質がオーバースペックになっていく可能性もある。その点は懸念材料として頭に入れておく必要があるように思われる。
*1:2012/9/25:釜→窯に修正。