ABBAと一億総中流と製造業

先ほどNHK-BSプレミアムABBAを取り上げていたが、お金絡みのテレビ番組で挿入曲として良く使われる曲に、ABBAの「Money, Money, Money」がある。改めてこの曲の歌詞を読んでみると、仕事に追われて生活にゆとりがない女性が金持ちの世界に憧れ一攫千金を夢見る、という内容のようである。


まさにそうした拝金主義をノアピニオン氏が直近のエントリで批判し、本ブログの昨日エントリへのコメントでご紹介いただいた。そのエントリで氏は、日本ではそれほど給与の高くない仕事に就いている人もプロとして遇され、上記の曲の女性のように負け犬根性を持つことも無い、と書いている。ただ、同エントリのコメント欄では、小泉改革以降それも変わりつつあり、「一億総中流」という言葉は聞かれなくなった、という指摘がなされ、ノアピニオン氏もそれに同意している。


一方、そうした中流社会の崩壊は製造業の軽視によるものだ、と喝破したのがダニ・ロドリックの直近のProject Syndicateコラムである(Economist's View経由)*1

We may live in a post-industrial age, in which information technologies, biotech, and high-value services have become drivers of economic growth. But countries ignore the health of their manufacturing industries at their peril.

High-tech services demand specialized skills and create few jobs, so their contribution to aggregate employment is bound to remain limited. Manufacturing, on the other hand, can absorb large numbers of workers with moderate skills, providing them with stable jobs and good benefits. For most countries, therefore, it remains a potent source of high-wage employment.

Indeed, the manufacturing sector is also where the world’s middle classes take shape and grow. Without a vibrant manufacturing base, societies tend to divide between rich and poor – those who have access to steady, well-paying jobs, and those whose jobs are less secure and lives more precarious. Manufacturing may ultimately be central to the vigor of a nation’s democracy.
(拙訳)
我々は脱工業化社会の時代に生きているのかもしれない。今や情報技術、バイオ技術、高価値のサービスが経済成長の原動力となっているのかもしれない。しかし製造業を蔑ろにする国は自らを危険に曝すことになる。
ハイテク産業は特別な技術を必要とし、創出する職は僅かであるため、雇用全体への貢献は限られたものとならざるを得ない。一方、製造業は、そこそこの技術を持った労働者を大量に吸収することができ、彼らに安定した仕事と十分な給与を支給することができる。従って、ほとんどの国において製造業は高賃金の仕事の有力な提供元であり続けている。
実際のところ、製造業は、世界の中流階級が形成され拡大していくところでもある。活発な製造業の基盤抜きでは、社会は富裕層と貧困層――安定した給与の高い職を得る者と、不安定な職に就き生活が心許ない者――に分離してしまう傾向にある。突き詰めるならば、製造業は一国の民主主義の興隆にとって中心的な役割を果たすもの、と言えるかもしれない。


この後にロドリックは米国を初めとする世界各国の事例について分析し、最後に以下のように結んでいる。

As economies develop and become richer, manufacturing – “making things” – inevitably becomes less important. But if this happens more rapidly than workers can acquire advanced skills, the result can be a dangerous imbalance between an economy’s productive structure and its workforce. We can see the consequences all over the world, in the form of economic underperformance, widening inequality, and divisive politics.
(拙訳)
経済が発展して裕福になるにつれて、製造業――「ものづくり」――は必然的に重要度が下がっていく。しかし、そのことが労働者が高度な技術を習得するよりも急速に進むと、経済の生産構造と労働力の間のバランスが崩れるという危険な結果を招きかねない。我々はそうした事例を、経済の低迷や格差拡大や政局の分裂といった形で世界中で目にすることができる。

*1:製造業に関するロドリックないしロドリックに近い考えの人の議論についてはこのエントリ参照。