サプライチェーンは蜘蛛の糸?

15日エントリで紹介したロドリック論説に対し、Free Exchangeでライアン・アベントが異議を唱えている

  • ロドリックのいわゆる「時の試練を経たレシピ」は、前世紀の大部分において満足できる料理を生み出さなかった。前世紀の大部分で所得が最も伸びたのは、既に富裕となっていた国だった。発展途上国から先進国に仲間入りできたのは、少数の小さな経済に過ぎない。
  • それが1980年代末までの状況だったが、過去10〜15年においては、新興国が富裕国に比べ速く成長するのが常となった、1990年以降、新興国の一人当たり所得水準は、先進国の10%から17%にまで高まった。彼らはむしろ古いレシピを捨てて新たなより美味しいレシピを見つけたように見える。
  • ロドリックのいわゆる工業生産の無条件収束のメカニズムに貧困国が容易に乗っかるようになったのは、サプライチェーンの急速な国際化のお蔭。
  • 中国の製造業は非常に資本集約的だが、過去20年間において雇用の確保に貢献してきた。製造業の労働集約性が低下したとしても、繁栄に貢献できないわけではない。生産性の高い製造業は、バラッサ=サミュエルソン効果を通じて都市部のサービス業の賃金をも高めるのだ。
  • 中国の存在も他国の経済成長にとって阻害要因とはなっていない。サプライ・チェーンには、運送の時間を節約するため地域ごとに分かれる傾向がある。中国は「アジア工場」のハブとなっており、フィリピンやマレーシアやベトナムなどの経済と共に発展してきた。それらはむしろ中国の工業化と正の相関を持っているように見える。成長の奇跡は終わったのではなく、むしろ普遍化したのだ。
  • 問題は、このサプライチェーンによる成長モデルがいつまで続くか、ということと、それが無くなった後に何が残るか、ということ。
    • 前者については、すぐに終わるとは思えないが、技術の進歩(Ex. 製造部品の3D印刷)による通信や運送コストの低下が脅威となる可能性はある。
    • 後者については、ロドリックの懸念の一つと符合する。サプライチェーンによる成長モデルは、従来の成長モデルの比べると確かに技術移転が少なく、人的資本の育成に直接はつながらない。しかし、その成長がもたらした果実によってインフラや教育を充実させられるし、都市化の進展は子供の教育や技能の習得の機会を増やす。


アベントはさらに、エコノミスト誌のBy invitationサイトでこの問題に関する識者の意見を募っている(その一部をFree Exchangeでも紹介している)。
ちなみに、アベントが上記の反論で依拠したのは印刷版Free Exchangeのこの記事だが、そちらの記事で主張が取り上げられたRichard Baldwinは当然ながらアベントに賛成する論陣を張っている。一方、同記事で前フリに使われたLant Pritchettは、ロドリックの結論に(富裕国の消費の飽和というロドリックとは違う論理に基づきながらも)賛意を表している。