実質政策金利の推移

FRBの2000年代前半の低金利政策を批判する経済学者の急先鋒であるジョン・テイラーが、1/12ブログエントリで以下のような図を紹介している。

これによると、コアPCE(Personal Consumption Expenditures=個人消費支出)インフレ率*1(前年同期比)で実質化したFFレートは、2000年代は期間の4割以上でマイナスだったという。これはインフレが昂進した1970年代を上回る率であり、テイラーはこの期間に金利が「Too Low For Too Long」であった証左だとしている。


この図の出所はカンザスシティ連銀総裁のトーマス・ホーニグ(Thomas Hoenig)の年初(1/7)スピーチの原稿。そのpdfでは、実質FFレートの時系列推移も載せている(下図)。



これを見て、日本で同様の図を描画したらどうなるかと思って描いたのが下図である。


政策金利としては、1995年6月以前は公定歩合、1995年7月以降はコールレートを用いた。両者のデータソースはこちらを参照(ただし今回はいずれも期種=月次のものをそのまま取得)。1995年7月を境としたのは、日銀の金融市場調節に関する公表文平成7年7月7日が転換点と考えたためである。。
また、実質化には、消費者物価指数と国内家計消費デフレータの2種類を用いた。消費者物価指数は、1970年以前はここの年次データの前年比をその年の各月にそのまま当てはめ、1971年以降はこのページ前年同月比データの「総合」を用いた。国内家計消費デフレータは、1956年から1980年まではここ、1981年以降はここの家計最終消費支出デフレータの四半期ベースの前年同期比を、各四半期の各月のデータに当てはめた。なお、消費税導入や引き上げに関する調整は行なっていない。


これを見ると、1950年代にはゼロを挟んで上下に大きく振れていた実質政策金利が、高度成長期の1960年代に振れが収束して安定したものの、その後の1970年代のインフレ期に今度は大きくマイナスに振れ、戻した1980年代は5%以内のプラスで推移した後、1990年代以降はそのプラス幅が減少していった様子が分かる。


期間を1971年以降に絞ると以下のようになる。

ここではさらに、コアコア消費者物価指数こちらの「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合」)で実質化した系列も付け加えている。
当然ながら、第一次、第二次石油危機、湾岸戦争、2008年の資源価格高騰の際にはコアコア指数で実質化した金利の方が総合指数で実質化したものよりも高くなり、1980年代後半のような資源価格安定時には逆に低くなる。


1980年以降はこちら。

これを見ると、CPIや国内家計消費デフレータで実質化した金利は、1990年代初頭のバブル崩壊後以来の水準に達していることが分かる。コアコアで見ると、2000年のゼロ金利解除から2001年のITバブル崩壊にかけて以来の水準である。


さらに1999年以降に限定。

この期間は、CPIベースではマイナスになった時期もあるが、コアコアベースでは常にプラスであったことが分かる(1999年と2003年にゼロ近傍まで落ちたことはある)。国内家計消費デフレータベースは概ね両者より高めで推移しており、マイナスになったのは2008年の資源価格高騰時のみである。冒頭のカンザスシティ連銀の図と比較してみると、2000年代に日本が米国に比べ金融緩和的であったとは特に言えないことが分かる。

*1:cf. ここ