バーナンキ再任に関する経済学者の見方

WSJブログで表題の件のまとめ記事が上がっていたので、以下に拙訳で紹介する。

Brad DeLong, U.C. Berkley
バーナンキは)もはやインフレ目標を主唱する学者ではない。彼は、今や、FOMCのコンセンサスを代表する声である。同時にFOMCの一員として、内部での議論における自らの主張を通じ、そのコンセンサスを多少は動かすことができる。そして彼は、そのコンセンサスを自分の言動に反映しようとする。従って私は、バーナンキの公式発言がFOMCのコンセンサスから離れることを要求するよりは、FOMCのコンセンサスを建設的な方向に動かすことの方に大いに関心がある。ここで言う建設的な方向とは、オバマが、非常に明確に考えを述べる思慮深い分別ある2人のマクロ経済学者を、休会任命でFOMCに可及的速やかに追加し、理事の空席を埋める、ということだ。また、公の場でコンセンサスから離れた言動をしてしまうFRB議長は、内部でコンセンサスを動かす力が弱くなるだろう。私に言わせれば、ベン・バーナンキの(私的、知的、および学者としての)現状分析に問題はまったく無い。問題なのは、FOMCのコンセンサスに問題があるということだ。バーナンキの公的発言は、その誤ったコンセンサスを反映している。従って、私としては、最近のバーナンキの公式発言の性格については、バーナンキよりもむしろオバマに責任があると考えている。現時点のFRBの政策とレトリックは、もっとギャグノン的であるべきなのにそうなっていない。これは、オバマFOMCのコンセンサスを動かすために昨年打つべき手を打たなかったためだ。*1
Ed Glaeser, Harvard University
バーナンキ氏には悪い手札が配られたし、彼の行なったコールにはとやかく言う余地がある*2。しかし金融システムを守りきったという目覚ましい功績は、再任には十分な理由となる。誰か別の人間に交代させることは、すべてのことが順調とは程遠い時期に、不必要な混乱と移行の手間を招く。もし上院が富める銀行家から貧しき米国民に分け与えたいならば、法令で直接的に実施すべきであり、FRB議長がロビン・フッドを演じることを期待すべきではない。
Steve Keen, the University of Western Sydney
バーナンキは、大恐慌の発生原因に関する(アービング・)フィッシャーによる正確な説明を闇に葬った新古典派の経済学者であり、従って、今日の米国が大いに必要としている政治的生贄のターゲットにまさにふさわしい。危機が到来した時の彼の思い切った行動は危機の直接的な衝撃を和らげたが、しかし、彼がその蔓延を手助けした大恐慌の真の原因に関する無知が無ければ、そもそも危機は訪れなかった。
Mark Thoma, University of Oregon
もし保守派の見解が聞きたいならば、ジョン・テイラーみたいな人の意見に耳を傾ければよい。彼ならば疾うに金利を上げて、資産購入プログラムを手仕舞っていただろう。あるいは元セントルイス連銀総裁ウィリアム・プールのような人の意見に耳を傾ければよい。彼ならば潰すには大きすぎる銀行も平然と潰し、産業界については歯牙にもかけず、インフレ管理を他のすべてに優先する政策目標としただろう。保守派イデオローグ、とりわけインフレタカ派が、バーナンキのやったことを是認することはない。バーナンキの政策についてならば、遠慮なく批判すればよい。たとえば、我々が実施すべき量的緩和については、色の付かない純粋な議論が存在する――もっと積極的に動かないのは実は間違いだ、という批判のように。しかし彼の政治的立場を批判の足掛かりにすべきではない。
James Hamilton, U.C., San Diego
私が時々耳にするところでは、バーナンキの批判者たちは、あたかもバーナンキの世界観が浅薄なものであり、常識ある人には自明なことが彼には見えていない、とでもいうような口振りで話す。もし車のバンパーに貼るようなバーナンキについての要約が欲しければ、それは次のようなものになる――バーナンキ貸し渋りが普通の人々に破壊的な影響を与えると強く信じており、その損害を押さえ込むために自分に権限内でできることすべてを実施した。彼の下で実施された非常手段が「グローバル金融システムの差し迫った崩壊を防いだ」という彼の主張には賛否両論あるだろう。しかし、2つのことには同意すべきだ。グローバル金融システムが崩壊しなかったことと、その崩壊を防ぐことがバーナンキの行動理由だったことだ。もし彼にそれ以外の動機があると考えるならば、バーナンキのいわゆる浅薄な世界観よりもはるかに浅薄な集団思考に囚われていることになる。
Dean Baker, Center for Economic and Policy Research
責任あるFRBは、ゴールドマン・サックスシティグループのボロ儲けが経済を脅かしている時には、彼らに対し断固たる措置を取るべきだ。バーナンキとその前任者は、ウォール街の連中が経済を駄目にすることに青信号を出した。将来のFRB議長が金融業界に立ち向かう希望がまだあるならば、そうした行動が明らかに必要だったときにできなかったバーナンキはクビにすべきだ。
Tyler Cowen, George Mason University
バーナンキが再任されなかった場合にも彼が理事の座に留まり、ドナルド・コーンが事実上のナンバー1のポストに横滑りし、皆が以前と同様に仕事をする、というプランにはダメ出しをせざるを得ない。それでうまくいくはずがない。そもそも再任されなかったらバーナンキは去るだろう。また、その協同体制がうまく行かなくなった際に、誰が責任者で何が本来の姿か、外部のものに見当がつかなくなる。その際に生じるであろう、評判を基準にした均衡状態もやはり機能しないだろうし、仮に機能したとしてもとても厄介な代物になるだろう。
Paul Krugman of Princeton University, New York Times
この地位のどんなに素晴らしい代替者も、上院での激烈な戦いに直面する。そして悪い代替者は、経済にとって真に恐ろしい結果をもたらす。それに、FRBでの政策決定は委員会の投票により行なわれる。バーナンキ氏が失業に十分な注意を払わず、インフレに注意を払いすぎるように見えたとしても、彼の同僚の多くはもっと悪い。彼の代わりに、彼ほど地位が確立されておらず、彼ほど内部の議論を左右する力がない人間を据えた場合、インフレタカ派の発言権を強め、雇用創出にかえって一層悪い結果をもたらすことになりかねない。これはバーナンキへの熱烈な支持ではないが、私の最大限の支持だ。
Wall Street Journal editorial
バーナンキ氏は政治的圧力に対して弱過ぎることが既に明らかになっている。2000年代、金融緩和政策が住宅バブルをもたらした時、彼はFRB理事としてアラン・グリーンスパンの知的面での副操縦士を務めていた。その後、議会が、住宅向けのみならず学生ローンにまで資金が供給されるようFRBに政治的圧力を掛けた時も、(当時議長だった)バーナンキは直ちに従った。今後の4年間にとってさらに不吉なことに、バーナンキ氏はバブル生成の過失がFRBの金融政策にあったことを一切否定し続けている。
Washington Post editorial
今や問題はバーナンキ氏が再任されるかどうかというよりも大きくなっている。明確な理由もないのに政治的パニックや宥和のために彼の再任を脅かしたことは、彼の新たな反対者が、この再任プロセスを、現代の経済運営に不可欠な要素である中央銀行の独立性に対する試練の場に変えてしまったことを意味する。もし怖気づいた上院議員の暴走によりバーナンキ氏の再任が否決されたら、米国ドルの価値は短期的な政治の道具に過ぎない、というメッセージを市場に送ることになる。それは経済にとって大きな、おそらくは持続する打撃になるだろう。
Yves Smith, naked capitalism
バーナンキの信認投票は、人々は金融面で政権側の押し付けるものを鵜呑みにするわけではなく、もっと根本的な変革が必要なのだというメッセージを送る強力な方法である。特に何人かの上院議員は、討議打ち切りには「イエス」と投票し(フィリバスターに訴えようとする議員がいる場合、議論を終わらせて投票に移る動議の可決には60の票が必要)、再任には「ノー」と投票する戦術(バーナンキの再任には単なる過半数のみが必要)を間違いなく検討しているだろう。そうすれば上院議員は、バーナンキには「ノー」を入れたと言える半面、討議打ち切りという重要な投票については共同歩調を取ったことになる。従って、議員に接触する際には、討議打ち切りと再任の両方にノーを入れてもらいたい、ときちんと伝えることが重要なのだ。
James Bianco, Bianco Research
もしこれが政治的問題ではないと思うならば、12月に選挙を迎える36の上院議員のことを考えるべきだ。そのうちの8人が賛成の意思を示しており(民主:5、共和:8*3)、9人は反対の意思を示している(民主:3、共和:6)。4人は態度未定であるという声明を発表しており、いずれも立候補せず引退することを表明している(民主:2、共和:2)。15人は何も声明を発表しておらず、再選の意思を示している(民主:8、共和:6)。言い換えれば、再選の意思を示している議員の賛成比率は47%であり*4バーナンキを再任するには十分ではなく、ましてや討議打ち切りの60%には及ばない。所属政党は関係ないのだ。

*1:ギャグノンについてはここ参照。なお、ここでデロングがバーナンキの公式発言として念頭に置いているものの中には、ここで紹介した自らの質問への回答も含まれているだろう。その回答が一つのきっかけとなって広まった各人からのバーナンキへの反発に、質問者のデロング自身がこのように火消しのような行動を取っているのが面白い(実際、これはバーナンキ支持に関して逡巡するクルーグマン1/23ブログエントリへの一種の反論として書かれている)。

*2:この文はポーカーの喩えを使っている。

*3:3の間違い?

*4:賛否を明らかにしている8+9=17人のうちの賛成8人ということか?