低金利と住宅バブルに関する経済学者の見方

昨日のエントリの脚注で触れたWSJブログの経済学者アンケート抜粋を以下に訳してみる。昨日のエントリに頂いたコメントへの回答になっている部分もあるかもしれない。
ちなみに、アンケートの対象はNBER(National Bureau of Economic Research)の金融政策プログラム(Monetary Policy Program)のメンバーとのこと。ただし、ここでの意見はNBERではなく各人のものとの由。
以前FRBの経済学者への“言論統制”を告発した記事を紹介したが、それを念頭に読むのも一興かもしれない。

ローレンス・ボール、ジョンズ・ホプキンス教授
(LAURENCE BALL, JOHNS HOPKINS PROFESSOR):
モーゲージの融資者が所得証明の書類にきちんとこだわっていさえすれば、こうした議論はまったく必要なかった。」


マイケル・ボルド、ラトガース教授
(MICHAEL BORDO, RUTGERS PROFESSOR):
FRB自身が住宅バブルを引き起こしたわけではない。住宅バブルの原因は、1930年代にまで遡る政府の持ち家促進政策、なかんずくCRA(Community Reinvestment Act=地域再投資法)*1、緩い規制、不適切なビジネス慣行、などの多岐にわたる。だが、緩和的な金融政策が燃料の多くを供給した。」


ブラッド・デロング、UCバークレー教授
(BRAD DELONG, BERKELEY PROFESSOR):
FRBがテイラールールの本来の値より2%低い水準にFF金利を3年間据え置いたと考えるならば、住宅のような長期耐久財の価格にもたらされたインパクトは6%ということになる。たとえかなり強いポジティブ・フィードバックが組み込まれたとしても、それだけでは巨大なバブルを創り出すことはできない。しかも、現在の恐慌状態をもたらしたのはバブルの崩壊ではない――2000-2001年のバブル崩壊の規模はもっと大きかったが、恐慌状態にはつながらなかった。」*2


ベンジャミン・フリードマン、ハーバード教授
(BENJAMIN FRIEDMAN, HARVARD PROFESSOR):
「民主主義においては、規制政策は自分で選んだものになる。もし市民が規制を信用しない人を公職に選出し、その選ばれた人が、同じく規制を信用しない人を規制当局のトップに据えれば、法律に何が書かれていようと規制というものは無くなる。」


マーク・ガートラー、ニューヨーク大学教授
(MARK GERTLER, NEW YORK UNIVERSITY PROFESSOR):
「もし歴史を遡って一つだけ政策を変更するならば、私ならばサブプライム融資を標的にする。もし非プライム融資というものが無かったら、2007年の住宅価格の調整の影響は2000-2001年のような中規模の景気後退に留まり、我々が経験したような経済の崩壊には至らなかっただろう。」


マービン・グッドフレンド、カーネギーメロン大学教授
(MARVIN GOODFRIEND, CARNEGIE MELLON UNIVERSITY PROFESSOR):
金利政策は2002-2003年の期間においては適度に景気刺激的だった。しかし2004-2005年においては、通例通りマクロ経済の環境に鑑みて、あのように機械的にではなく、もっと積極的に利上げすべきだった。当時、金利政策をもう少し引き締め気味にすべきことを示唆していた指標は、住宅価格の高騰だけではなかった。そのような金利引き締め策を採っていたら、住宅価格高騰期の最後の1年程度は無しで済ませることができ、続く調整期の最悪の結果は避けられただろう。」


クリストファー・ハウス、ミシガン大学教授
(CHRISTOPHER HOUSE, UNIVERSITY OF MICHIGAN PROFESSOR):
金利が通常より低い期間はあったかもしれないが、通常よりひどく低かったわけではない。2001年の景気後退の後、インフレは低く(2001-2003年の大部分を通して2%以下だった)、2年以上にわたって職は失われ続けた(雇用喪失は大体2003年8月まで続いた)。従って、FRB金利を低く抑え続けたことは不合理ではなかった。低金利は住宅バブルに幾分か寄与しただろうが、危機の主要因ではなかっただろう。」


ケネス・カトナー、ウィリアムズ・カレッジ教授
(KENNETH KUTTNER, WILLIAMS COLLEGE PROFESSOR):
「『バブル』は2005-2006年まで本格化することはなかった。それまでにFRB金利を概ね通常水準まで引き上げていた。」


ジェフリー・ミロン、ハーバード教授
(JEFFREY MIRON, HARVARD PROFESSOR):
FRBがバブルに寄与したもっと根本的な方法は、『グリーンスパン・プット』を通じてだった。つまり、何が起きようとFRBはあまり痛みを伴わずにその後始末をする意志と能力がある、という保証だ。このスタンスはウォール街の過剰なリスク引き受けの主要因となった。」


ジョナサン・パーカー、ノースウェスタン教授
(JONATHAN PARKER, NORTHWESTERN PROFESSOR):
FRBは危機を抑制できたであろう政策分野の大部分において、規制を変更したり執行したりする法的権限を持っていなかった。もしFRBもしくは他の当局がそうした権限ないし能力を持っていたら、今の我々はシステムを微調整するだけで話を済ませられただろう。」


ゲーリー・リチャードソン、UCアーバイン教授
(GARY RICHARDSON, UNIVERSITY OF CALIFORNIA IRVINE PROFESSOR):
「低金利と住宅バブルの関係は間接的なものだ。低金利は住宅保有者のモーゲージ借り換えを促進した。この借り換えの大波を処理するため、金融機関はモーゲージ引き受け能力を拡大した(モーゲージ引き受け業界の雇用はほぼ倍増した)。借り換えの大波が収束した後、モーゲージを拡張する新たな方法を見つけることによって、金融機関は拡大したモーゲージ製造の能力を稼動させ続けた。それがエキゾチックなモーゲージの創造につながり、それまで不適格とされてきた買い手への融資拡大につながった。」


クリス・シムズ、プリンストン教授
(CHRIS SIMS, PRINCETON PROFESSOR):
「住宅バブルの膨張という事態に対し、FRB自身が法的機関との協力抜きでできたことはあまり無かったかもしれない。…あのバブル期には、規制強化や、バブルの火に油を注いでいた手数料や賞与の増大への歯止めを求めた人が、現実に影響を与えるのは難しかっただろう。」


ジョン・スタインソン、コロンビア教授
(JON STEINSSON, COLUMBIA PROFESSOR):
FRBの過剰な金融緩和政策が住宅バブルで果たした役割は、せいぜい脇役に過ぎなかった。FRBの過剰な金融緩和政策が主役だったと考える人は、FRBがかなりの長期にわたって実質金利に大きな影響を与えられると考えていることになる。私にとって、それが真実であるかどうかは明らかではない。」

*1:cf. このクリントンインタビュー

*2:昨日紹介したベックワースは、このデロングの意見に対し、低金利が金融機関のリスク引き受けに与える影響を過小評価している、と評している