過度の金融緩和防止は名目成長率安定化と両立可能か?

今日も2005年のFOMC議事録ネタ。
デビッド・ベックワースがこのうちの2005年12月プレゼン資料の以下の図に反応し、FRB自身が2000年代前半の政策金利が低過ぎたことを認識していた動かぬ証拠、とブログで書き立てている。というのは、以前紹介したように、この時期のFRBの過度な低金利政策が住宅バブルを引き起こした、というのがベックワースのかねてからの持説だからである。

上図では実質FF金利と中立利子率の推移が比較描画されているが、確かに2000年代前半には黒い線が赤いゾーンより下振れしているのが目立つ。


ただ、コメント欄では、幾人かのコメンターがベックワースのそうした単純なFRB悪玉論に疑問を呈している。その代表的なものがAndy Harlessによるコメントで、彼は、2001-2006年の名目GDP成長率は年率5.3%であったが、それはその前の5年間(5.4%)ないしさらにその前の5年間(同じく5.4%)より少し低いくらいであったので、名目成長率から判断するにFRBが過度の金融緩和をしていたというのは当たらない、と指摘している。


また、Fed WatchのTim Duyも同様にベックワースの見方に疑問を呈しFRBのミスは金利ではなく規制面にあったのではないか、と述べている。


金融政策は名目支出の安定化を目標にすべし、という主張は、まさに(サムナーと並んで)ベックワースが唱えてきたものであり、その点で上記の批判は彼に対する有効打になっていると言える。それに対しベックワースは、以下の2つの図を提示して反論した


上は国内総需要、下は海外からの需要も含む総需要である。赤線は1987-1998年のトレンドであり、いずれの図でもやはり2000年代前半に名目需要がそのトレンドより上振れしていた、とベックワースは主張する。ここで1987-1998年のトレンドを基準として使ったのは、それがグリーンスパン時代の中で経済が安定していた時期だから、とのことであり、1998年を終点としたのは、その時に初めてグリーンスパンが、経済が堅実な成長を続けているにも関わらず(国際経済危機に対処するために)金利を引き下げたから、とのことである。


このエントリのコメント欄にはAndy HarlessのほかにBill Woolseyも現われ、トレンドとしてどの時期が適切か、という議論と共に、在庫投資をどう扱うべきか、というかなり技術的な議論をしている。そこまで行くと、そもそもそれほど厳密な名目成長率の目標達成をFRBに要求することには土台無理があり*1、その点でやはりベックワースの議論は欠点を抱えているのではないか、という気が個人的にはする。

*1:以前も似たようなことを書いたが。