自然利子率を成長率の枠組みで捉え直してみると

Andy Harlessがおよそ5ヶ月ぶりにブログポストを上げ、概ね以下のようなことを書いている

  • 市場マネタリストによれば、自然利子率は期待実質成長率に依存し、期待実質成長率は金融政策に影響を受ける(cf. ここ)。従って、現実の金利を自然利子率に一致させようとする政策当局者は、動く標的を追い掛けていることになる。
  • この問題に対処するには、名目金利を期待インフレ率で調整した自然利子率という概念を捨て、名目金利を期待名目成長率で調整した指標を考えるべき。
  • ただし、均衡金利は成長率より低いと考えられるので、金利を成長率で調整するのではなく、符号を逆にして、期待成長率を均衡金利で割り引いた指標「自然割引成長率」を考える。
  • また、期待成長率を現実の金利で割り引いた「現実割引期待成長率」も考える。
    • 「現実割引期待成長率」が「自然割引成長率」と等しければ、雇用は通常水準となり、名目所得の成長率は安定する。
    • 「現実割引期待成長率」の方が「自然割引成長率」より高ければ、インフレが加速する。
    • 「自然割引成長率」の方が「現実割引期待成長率」より高ければ、景気は後退し、失業とデフレ圧力が生じる。
  • いわゆる長期停滞は、「自然割引成長率」が名目GDP目標成長率を上回っていることを意味する。言い換えれば、その名目GDP目標成長率を達成するためには名目金利をマイナスにする必要がある。
  • しかし、名目GDP目標成長率を5%とした場合、この定義による長期停滞が発生するためには、潜在成長率が均衡金利を5%以上上回っている必要がある。それが現実に起きているとは考えにくい。問題は長期停滞ではなく金融政策にある、というのがHarlessの見立て。
  • 名目GDP目標成長率を「自然割引成長率」の上限とするならば、下限はゼロと考えるのが自然だろう。ゼロは動学的効率性*1閾値であり、「自然割引成長率」が正であることは、動学的非効率性を意味する。Harless自身は、現在の経済はある意味で(=リスク金利ではなく無リスク金利との関連において)動学的非効率の状況にある、と考えている。
  • Harlessの言う、現在の経済が動学的非効率の状況にある、とは、米政府は、事実上無リスクの資産を発行して、成長率を上げる、というポンツィスキームを実行できる状況にある、ということである。
    • この動学的非効率性は、限界的な投資家が、新規投資と国債のリスク調整後リターンを比較して、後者を選好したことから生じている。従って、政府がそうした資産を発行しないことは非効率である。
      • ただしリスクを調整しないリターンは新規投資の方が国債を上回っているので、限界的な投資家の選択は物質的な意味では厚生を悪化させており、その点から言えば、経済は動学的効率的である。

*1:cf. ここ