AS-ADで見るデフレの罠

EconospeakでKevin Quinnが、ゼロ金利下限の存在下でフィッシャー則と金融政策ルールとの相互作用により発生する二点均衡を、AD-ASの枠組みで描写することを試みている。本ブログのここで紹介した研究をはじめとするこのテーマに関する分析では、横軸をインフレ率、縦軸を名目金利に取るのが普通だが、Quinnは敢えてAD-ASという“恐竜時代の手法”――彼はエントリを「Macro stuff from aan AD/AS dinosaur」と題している――から眺めようとしているわけだ。


彼はまず、金融政策ルールとして以下を提示している。
  R = Rn + a(I - It)
 R=実質金利、Rn=自然利子率、I=インフレ率、It=目標インフレ率

この時、名目金利iは
  i = R + I = Rn + a(I - It) + I
として表わされる。名目金利の非負制約より、上記の金融政策ルールの適用範囲として、
  I > (a/(1+a)) It - Rn/(1+a)
が得られる。Iがそれ以下に落ち込むと、R = -Iとなる。


また、Yを実質GDPとし、IS曲線
  Y = 500 - 100*R
を仮定する。さらに、潜在GDPとしてY* = 800を仮定する。


ここで、a= 1/4, Rn = -3, It = 4を仮定する。すると、上記のIの不等式は、I > 3.2 となる。
よってIS曲線は、
  I ≧ 3.2の時:Y = 900 - 25*I
  I < 3.2の時:Y = 500 + 100*I
となる。


このIS曲線とLRAS(長期供給)曲線(Y=800)との交点は2箇所あり、それぞれI=4、I=3である。
I=4の時、FRB名目金利を1にセットし、実質金利は-3となる。
I=3の時、FRB名目金利を0にセットし(ゼロ金利下限への到達)、実質金利はやはり-3となり、自然利子率に一致する。この時FRBインフレ目標を達成することができない。


では、安定性はどうか?
もしインフレ率が3.2より高く(=AD曲線は右下がり)、Yが潜在GDP以下ならば、実際のインフレ率が期待インフレ率より低くなることにより期待インフレ率が下がっていき(=SRAS(短期供給)曲線たる産出版のフィリップス曲線が下方にシフトし)、自然に潜在GDPに達する(おそらく下図のようなイメージ)。


もしインフレ率が3.2より低く(=AD曲線は右上がり)、Yが潜在GDP以下ならば、フィリップス曲線が右上がりのAD曲線より傾きが緩やかな場合、デフレスパイラルに陥り、潜在GDPからどんどん離れていく。一方、フィリップス曲線がAD曲線より傾きが急な場合は、安定性ないし蜘蛛の巣状の安定軌道が得られるだろう。この時、安定性と安定軌道のどちらになるかは、適応的期待仮定に依存する。例えば時点tの期待Iが時点t-1の実際のIに等しければ、蜘蛛の巣状の軌道となる(おそらく下図のようなイメージ)。