1枚の図で分かるFRBの間違い

前回、昨年のFRBの政策を誤りと指弾したデビッド・ベックワースのエントリを紹介したが、「More on the Fed's Mistake of 2015」と題した後続エントリでベックワースは、以下の図を紹介している。

これはInvestor's Business DailyのJed Grahamが書いた1/29付け記事からの引用である。ベックワースは記事本文から以下の一節を引用している。

Janet Yellen’s Federal Reserve has done something that no other Fed has done since Paul Volcker aimed to quash runaway inflation in the early 1980s, even if it meant a recession — and it did.

New Commerce Department data out Friday show that nominal GDP grew at a 1.5% annualized rate in the fourth quarter, casting further doubt on the Fed’s decision to begin hiking its key interest rate in December. (Inflation-adjusted GDP rose just 0.7% in Q4.)With the exception of Volcker’s interest-rate hike in early 1982 amid a recession, no other Fed has raised rates during a quarter in which nominal GDP grew less than 3%, dating back to the early 1970s.
(拙訳)
ジャネット・イエレンのFRBは、1980年代初めにポール・ボルカーが悪性インフレを鎮めるために景気後退覚悟(そして実際に景気後退は起きた)で実施して以来、どのFRBもやってこなかったことをやってのけた。
金曜日に公表された商務省の最新データによれば、第4四半期の名目GDP成長率は年率1.5%であった。これは、12月に政策金利引き上げを開始したFRBの決定にさらなる疑問を投げ掛けるものである(インフレ調整済GDPの第4四半期の成長率はわずか0.7%であった)。景気後退真っ只中であった1982年初頭のボルカーの金利引き上げを除けば、1970年代初頭以降、名目GDP成長率が3%以下の四半期においてFRB金利を引き上げた例は存在しない。

Grahamはさらに以下の点を指摘している*1

  • 名目GDP成長率が4%以下の時の金利引き上げでさえ稀で、1983年から2014年の間に2回しか起きていない。
    • しかもそのうちの1回(1986年の第2四半期)は、その前に0.5ポイント引き下げたうちの0.125ポイントを巻き戻した格好になっている。
    • 従って、ボルカー以来、名目GDP成長率が4%以下の四半期にネットベースで金利を引き上げたのは1995年第1四半期のみ。ただ、その時も、次の1997年初めの引き上げの前に3回引き下げを行っている。
  • 年率ではなく前年同期比を見た場合、名目GDP成長率が3%以下の時に引き上げたのはイエレンのみとなる。
    • 2014年第4四半期からの名目成長率は1.9%。
    • 年次の名目成長率が5%以下の時にFRBが引き上げを行ったのは他には3回のみ。うち1回は名目成長率が4.9%だった1986年で、他の2回は名目成長率が3.2%だった1982年のボルカー景気後退期。


ベックワースは、名目GDPはマネーサプライとその使用頻度の積であるから、広義での金融状況の指標であり、従って金融状況が弱っているにも関わらずFRB金利引き上げを選択したことになる、とこの記事のポイントをまとめている。また、12月よりずっと前にFRBの間違いは始まっていた、という前回エントリで示した自説を維持しつつも、この記事の分析に好意を示している。



ちなみに日本では2000年8月に当時の速水優日銀総裁がゼロ金利解除を行ったが、2000年第3四半期の名目成長率は年率マイナス1.7%である。また、2006年7月には当時の福井俊彦日銀総裁が再びゼロ金利政策を脱して短期誘導金利を0.25%(ロンバート金利は0.4%)へ引き上げたが、2006年第3四半期の名目成長率は年率マイナス1%であった(下図)。