2000年代前半のFRBの低金利政策と住宅バブルの関係についてはかねてよりジョン・テイラーやデビッド・ベックワースが批判の急先鋒となっており、本ブログでもその問題に関する議論をこれまでに幾つか紹介してきたが*1、2/2付けのvoxeuにFRBを正面切って擁護する論説が現われた。書いたのはNicolas Groshennyというニュージーランド準備銀行の研究者*2。
彼の分析結果は以下の図に集約される。
図の黒い線が実際のデータであり、緑の線がテイラールールを厳格に適用した場合(左上図に示されるテイラールールとの乖離が2002年から2006年までゼロとなるようにした場合)のシミュレーション結果である。
これによると、テイラールールに沿ってFF金利を動かしていた場合(右上図)、2004年にGDPデフレータで計測したインフレ率は1%以下まで落ち込み(左下図)、失業率は8%を超える(右下図)。また、2003年第4四半期と2004年第1四半期にインフレ率が1%を超えていた確率はゼロに近く、2004年第1四半期に失業率が8%を上回っていた確率は90%を超えるという。
この分析結果は2010年のAEAでのバーナンキ講演と整合的であり、2002年から2006年に掛けてFRBがテイラールールに比べ緩和的な金融政策を取ったことは、デフレと高失業率のリスクを著しく減らし、(物価安定と雇用という)FRBの二つの任務に適合するものだったのだ、とGroshennyは結論付けている*3。
*1:たとえば以下のエントリ:
テイラー展開 - himaginaryの日記
グリーンスパンの2000年代前半の低金利政策は非難されるべきか? - himaginaryの日記
学界vsウォール街:2000年代前半の低金利についての見方 - himaginaryの日記
低金利と住宅バブルに関する経済学者の見方 - himaginaryの日記
実質政策金利の推移 - himaginaryの日記
生産性とGDPギャップ・再説 - himaginaryの日記
FRBが金利を低く長く抑え過ぎたことが2000年代のバブルの原因か? - himaginaryの日記
過度の金融緩和防止は名目成長率安定化と両立可能か? - himaginaryの日記
*2:ただし通例通り、これは個人の見解であってニュージーランド準備銀行の見解を反映するものではない、という断り書きが付いている。