3つの時間軸政策

PIMCOのRichard ClaridaとSaumil H. ParikhがFRBの時間軸政策を3種類に分類している(H/T Mostly Economics):

  • カレンダーベースの時間軸政策
    • 2011/8〜2012/12のFOMC声明
  • 指標ベースの時間軸政策
    • 2012/12〜現在のFOMC声明
  • 最適管理の時間軸政策
    • ジャネット・イエレンの2012年4月と11月*1の講演

このうちFRBが実際に適用したカレンダーベースおよび指標ベースの時間軸政策にどれだけ効果があったかについては、世間の合意は取れていない、と2人は書いている。ただし彼らの評価では、カレンダーベースの政策は、米国債のイールドの水準とボラティリティ――特にイールドカーブの短期から中期に掛けての――に効果があったという。一方、指標ベースの政策は、労働市場の状況を把握するのに失業率などの単一の指標に頼ることにそもそも困難が付き纏うことから、FRBのメッセージが一貫したものとならなかった、とやや辛めの評価を下している。


また彼らは、現在の指標ベースの政策のもう一つの問題点として、FRBが引き締めに転じた時にどの程度のペースで金利を正常化していくのかの情報をまるで提供していない、という点を指摘している。そうした情報を提供する時間軸政策としては、イエレンの最適管理政策のほか、彼女が4月講演で言及したテイラールールに基づく方法もある、と著者たちは言う。それも一種の指標ベースの政策であるが、失業率が6.5%以下になった後の政策経路を示すという点で情報提供的である、と著者たちは評価する。


一方、イエレンの最適管理政策については、著者たちは次の点を指摘している:

  • 政策金利の最適経路を選択した場合、他の選択肢を採った場合に比べて失業率を早く下げられる。しかし、そのためには、インフレ率が2%を下回ったことの埋め合わせとして、3〜4年は2%を上回ることを覚悟せねばならない。
  • その経路が完全に最適となるのは、インフレが目標を上回ることをFRBが許容する数年間の間も、インフレ期待が2%に留まることが前提。インフレ期待が一緒に上昇してしまえば、最適管理理論は画餅に帰す。
  • 時間不整合の問題を回避するという点では、テイラールールを使う方が優れている。イエレンが4月講演でテイラールールに基づく方法に言及したのも、その点を意識したためだろう。


結論部で著者たちは、イエレンFRBは、テイラールールや最適管理を用いて、現在の指標ベースの時間軸政策を情報伝達面で強化するのではないか、という期待を寄せている。ただ同時に、イエレンが4月講演で述べたように、それらは有用なベンチマークとはなるものの、人間の判断も重要になる、とも著者たちは指摘している。

*1:cf. ここ