大不況と911の共通点

引き続きガートラーインタビューから、これまで引用していない部分の概要をまとめてみる。

  • 大不況は、911と同様、何か悪いことが起きる予兆はあったものの、その発生は予見できなかった。後から考えれば概ね既存の理論で説明できる話だったが、その時はシャドウバンキングの脆弱性とそれがいかに経済を脆くしているかが分からなかった。バフェットのいわゆる「プールの栓を抜くまで誰が裸か分からない」状況だった。
  • 最大の誤りはサブプライム貸出市場における規制緩和。皆に持家を持たせるという発想により、融資基準が下がり、住宅ローンのリスクが高まった。また、商業銀行の外部に規制されない仲介部門が成長するのを許したのも間違いだった。
  • そうした政策が追求された背景には、以下の要因がある:
    • 金融市場は競争市場なのでうまく機能する、とひたすら市場を信じ、各人は市場全体ではなく自分のことしか考えない、ということが見過ごされた。
    • 皆に持家を、という考え。
    • 大平穏期における自己満足。ある著名なマクロ経済学者は、「さあ、従来の問題に時間を費やすのはやめにしよう、それらはすべて解決済みなのだから」と言った。
  • 現在の低金利には、金融政策の帰結と、弱い経済状況の帰結という両面がある。現在の自然利子率はおそらく間違いなくマイナスで、そのためFRB短期金利を限界まで引き下げた。長期金利には、3〜4年後には経済が回復し短期金利が上昇するだろうという予想に基づく上昇圧力と、大規模な量的緩和による低下圧力の両方が働いている。
  • FRBは政治からの独立性を可能な限り維持するため、保有する不動産担保証券などの民間証券を財務省に引き渡すべき。危機時には素早く対応できる機関として最後の貸し手たるFRBがそれらの証券の購入に動く必要があったが、今となっては政治的存在である財務省がそれらを保有する役割を引き継ぐべき。
  • FRBは今やかつてのシャドウバンキングの役割を引き継いでいる。即ち、不動産担保証券保有して、預金を発行している。民間との違いは、事実上無リスクの債務を発行できること。ただ、危機時に民間より借り入れが容易という点を除けば、それがフリーランチになっているとは思わない。
  • FRBは1970年代に非常に緩和的でボルカーとグリーンスパンがインフレに焦点を当てることによりそれを変えた、という考えは前からあった。Jordi GaliとRichard Claridaとの共著論文*1では、テイラールールとラース・ハンセンの手法を用いて金融政策の推移を描写し、議論に一石を投じることができた。
  • オイルショックによって生じる物価上昇圧力は一時的なものであり、それを永続化させるのは金融政策、という考えはフリードマン以来の常識となっていた。論文では簡単な枠組みの下でそれを明確に示した。
  • マクロ経済における金融の役割については未だに基本的な問題が残っている:
    • 危機前に何をすべきか? 規制はどのように設計すべきか?
      • 最適な資本比率は幾らか? 金融機関への規制はどこまで対象にすべきか? 金融システムにとって重要な機関とそうでない機関をどのように見分けるのか? 施行した規制の迂回行為をどのように発見できるか?
    • 危機後に何をすべきか? 介入すれば危機が不況ないし恐慌をもたらすのを防ぐことができるが、それはモラルハザードの問題を孕む。
  • 次の危機の芽を摘むため、ドッド=フランク法のような措置は絶対必要。
  • アラン・ブラインダーはかつて、研究には、興味深いが重要でないものと、非常に退屈だが重要なものの2種類がある、と言った。最適資本比率の研究は後者に属する。我々はその研究に関して未だ決定的な実証研究も理論研究も手にしていない。

なお、これ以外には、バーナンキと知り合ったきっかけや、NYUの経済学部をそこそこの水準からトップレベルに引き上げた経緯や、ブログの評価(面白いが、科学的議論には適さない)などが語られている。

*1:おそらくこれ