プリチェット検定

ハーバードの開発経済学者のラント・プリチェット(Lant Pritchett)が、Center for Global Developmentブログで面白いエピソードを紹介しているEconomist's View経由のポール・ローマー経由)。

In 2006 I was in West Bengal with a World Bank team and was asking questions of a group of women about a “livelihoods” program that built and financed women’s self-help groups as a means of increasing women’s productivity and incomes. After asking them questions for an hour or so I asked them if they had any questions for me or the team—after all, they had been so gracious to answer our nosey questions we would be rude to not allow them to ask us anything they wanted to know. After an awkward silence, one woman said “You all are from countries that are much richer and doing much better than our country so your country’s women’s self-help groups must also be much better, tell us how women’s self-help groups work in your country.”

I’m American. Along on the team was a German woman, another man from New Zealand, and a woman from the UK. We all looked at each other blankly as none of us had any idea whether there even were at any time in our countries’ history such a thing as “women’s self-help groups” in our countries (much less government program for promoting them). We also had no idea how to explain that, yes, all of our countries are now developed but no, all of our countries did this without a major role from women’s self-help groups at any time (or if there were a role we development experts were collectively ignorant of it), but yes, women’s self-help groups promote development.
(拙訳)
2006年に私は世銀のチームと西ベンガルにいて、「生計」プログラムについて女性の一団に質問していた。そのプログラムは、女性の生産性と所得を向上させる手段として、女性の自助グループを作り上げ資金を提供していた。1時間ほどの質問を終えた後、私もしくはチームに何か質問はあるか、と彼女たちに尋ねた。何と言っても、我々の不躾な質問にこれほど丁寧に回答してくれたのだから、彼女たちの訊きたいことを我々にまったく質問させないのは失礼なことだっただろう。ぎこちない沈黙の後、ある女性が尋ねた。「皆さんは私たちの国より遥かに裕福でうまくやっている国からいらっしゃったのですから、お国の女性の自助グループもさぞかしもっと素晴らしいのでしょうね。皆さんの国の自助グループがどんな感じなのかお教えください。」
私は米国人で、チームのメンバーはドイツの女性、ニュージーランドの男性、英国の女性だった。我々はぽかんとしてお互いを眺めた。我々のうち誰一人として、自国の歴史に「女性の自助グループ」などというもの(ましてやそれを促進する政府の計画)が存在した時期があったのかどうか、まるで知らなかったからだ。我々はまた、そのことをどう説明すべきかまったく分からなかった。はい、私たちの国は皆今や先進国です。しかし、いいえ、私たちの国は女性の自助グループが主要な役割を果たすことは一切なく発展しました(もしくは、何らかの役割を果たしていたとしても、我々開発の専門家は皆知りません)。でも、女性の自助グループは確かに国の発展を促進するのです。

この後にプリチェットは、ある「X」という要因が発展もしくは成長に良いというためには、以下の4つの基準を満たしていることが望ましい、と述べている。

  1. 先進国と途上国の開発の程度は桁が違うので、先進国は途上国より多くのXを持っているべき。
    • もしデンマークやカナダがマリやネパールより多くのXを持っていなければ、Xの効能は疑わしく思われる。
  2. 先進国の開発の程度は1870年当時とは桁が違うので、Xは140年前より多くなっているべき。
    • もしドイツや日本が1870年当時より多く(もしくは少なくとも同量)のXを持っていなければ、Xの効能は疑わしく思われる。
  3. 1950年以降、ある国は信じられないほど急激な発展を遂げ、ある国はほとんど発展しなかったのだから、Xは発展に失敗した国よりも急激に発展した国で普及しているべき。
    • もし韓国や台湾がハイチやナイジェリアより多くのXを持っていなければ、Xの効能は疑わしく思われる。
  4. 国の発展の速度は時系列で劇的に変化する(人間開発指標よりも特に経済成長でそのことが当てはまる)ので、発展速度が遅い時に比べて速い時にその国にXが多くあるべき。
    • もし(年率成長率が3.3%加速した)1978年以降の中国の方がそれ以前に比べてXが多くなっていなければ、あるいは、(年率成長率が3.7%減速した)1978年以降のコートジボワールの方がそれ以前に比べてXが少なくなっていなければ、Xの効能は疑わしく思われる。


これを受けて、チャーターシティ構想に情熱を注いでいる*1ローマーは、都市人口比率はこの「プリチェット検定」(ただし歴史の話となる第2項目を除く)をパスしている、と種々のグラフを基に力説している。

*1:cf. ここ