ボーン条件についてもう一度よく考え直してみた。

事務屋稼業さんのツイート経由で、畑農鋭矢氏がドーマー条件とボーン条件についてグラフを用いた分かりやすい解説を書かれたことを知った。


ただ、そのうちのボーン条件の解説は、やや単純に過ぎるように思われる。というのは、畑農氏のグラフでは、ボーン条件に従うとA点からB点、B点からC点というように一直線に債務GDP比率の増分(Δb)が改善していくように描かれているからである。


小生の以前のエントリでは、債務の増分に応じてプライマリーバランスを改善するという政策を取るならば債務は維持可能となる、というボーン条件の簡単な証明を行ったが、そこではΔbの一定割合だけプライマリーバランスを改善する、という形でボーン条件を表現した。即ち、その一定割合をαとおくと、α>0という条件である。
畑農氏の
 Δbt = pdt + (i-g)bt-1
という数式(pdはプライマリーバランス赤字のGDP比率、iは金利、gは成長率)の一階差分を取ると
 Δ(Δbt) = Δpdt+ (i-g)Δbt-1
となるが、それにその条件を当てはめると
 Δ(Δbt) = -αΔbt-1 + (i-g)Δbt-1
       = (i-g-α)Δbt-1
が得られる。ここでαはゼロより大きいことのみ仮定しているので、i-g-αの符号は不定であり、プラスになることもあり得る。即ち、ボーン条件を導入した後も、今期の債務増分が前期の債務増分より拡大することはあり得るわけだ。畑農氏のグラフで言えば、B点がA点の右上に来る可能性が否定できないのである。


ではこの場合、どういったメカニズムによって最終的にC点に到達することが保証されるのであろうか? 実はそれが保証されないのである。というのは、Bohn自身がこの論文マッカラムTrehan-Walshを参照しつつ述べているところによると、幾何級数的な債務の増大は、その増加率が金利より小さい限り、横断性条件と矛盾しないからである。


畑農氏のグラフはこの重要な含意(前述のBohn論文の言葉を借りれば「noteworthy additional implication」)をきれいさっぱり切り落としているので、氏の以前のエントリ*1の表現を借りれば、「多かれ少なかれ誤解を招く内容を含んでいるように見受けられる」。

*1:なお、そこでは前述の小生のエントリについて「よくできている」との評価を頂いた。遅まきながら多謝。