為替と交易利得・再訪

岩田一政元日銀副総裁のブルームバーグインタビュー記事が一部で話題を呼んでいる。池尾和人氏がツイッターでそれに同意を示したところ、フランソワーズ二郎氏サブプライム問題と比較した場合の交易条件の悪化による悪影響の定量的な評価について疑問を池尾氏に投げ掛けそれに対し池尾氏が、それは文脈外の話、と応じる場外乱闘的な一幕も見られた(H/T ののわ氏ツイート)。
ののわ氏はこの議論についてフランソワーズ二郎氏に厳しい見方を示しているが、小生はむしろ岩田氏=池尾氏の主張は以下の点で弱点を抱えているように感じた。

  • 交易条件の悪化は2005年頃から続いていたので、2008年初の景気後退について言うならば、タイミング的にはフランソワーズ二郎氏の指摘するようにサブプライム問題を主因とする方が考え方としては自然。もちろん、2005年頃から続いた交易条件の悪化がここで臨界に達したのだ、という議論もできるかもしれないが、そうした指摘はなされておらず、それを裏付けるような定量的な話も示されていない。
  • 交易条件悪化という点で2008年と現在の類似性を指摘しているが、この点についても定量的な評価が無い。

本ブログでは、昨年5月に、為替が交易条件に与える影響に焦点を当てたエントリを書いたことがあったが、上記の点を確認するため、同エントリの最後の図をデータを更新して(=2012〜13年度の2年分のデータを追加+公表値ベースの交易利得と円ドルのグラフも追加)以下に示してみる。

これを見ると、次のようなことが分かる。

  • 前年比でみた交易条件の悪化は2004年度に始まり、2008年度まで続いた。2009年度にはいったん改善するが、2010〜11年度は再び悪化。2012年度には悪化は緩和するが、2013年度は再び悪化の程度が拡大。
  • (契約通貨ベースと円ベースの輸出入物価を基に弾き出された棒グラフの)交易条件の変化に対する為替の寄与は基本的にマージナルなものに留まる。ただし2013年度の悪化については、0.6%ポイントのうち半分の0.3%ポイント為替が寄与しているが、それでも、資源価格上昇によって1%ポイント前後の悪化が続いた時期に比べれば3割程度に留まっている。逆に言えば、当時と同程度の交易条件の悪化がもたらされるためには、年度ベースで、2012年度から13年度に掛けて進んだ円安の3倍程度の円安が必要となる。

[追記]
ののわ氏にコメントを頂いて、こちらのエントリの議論を思い出した。ツイートで池尾氏は、「俺は交易条件の話をしているんだ」といった限定的な言い方はせずに、「ここでは、リーマンショックの前(08年前半)に景気が悪化し始めていたメカニズムの話をしているわけです」という言い方をしたわけだが、あるいはこうしたモデルが(漠然とした形でも)考え方の背後にあるのかもしれない。