ロムニーの税政策は数学的に成立しない?・補足

8/31に取り上げたデロングのフェルドシュタイン批判に対し、フェルドシュタインが(名指しは避けつつも)マンキューブログの場を借りて反論した。ただ、小生が指摘したような論点は前面に押し出さず、批判者の主張を取り入れても、あれやこれや工夫すれば減収分は補える、と述べるに留まっている。これに対しデロングは、数学的誤りは糊塗できない、と一蹴している


小生の8/31の指摘は、Yを税控除前の課税対象収入総額、rを現行税率、r'をロムニー案による引き下げ後の税率、dを税控除総額として、
 Y(r - r') < dr
の式が成立すれば、フェルドシュタインの主張は成り立つ、というものであった。そして、フェルドシュタインはYrを「The income-tax revenue in 2009 before all tax credits」として計算しているので、右辺をdr'にすべきという批判は当てはまらない、とも指摘した。


ただ、ここで一つ問題になるのは、左辺の「tax credits」と右辺のdが本当に対応しているか、という点である。そこで、そもそも元データをネット上で拾えないかと探してみたところ、「before all tax credits」は見つからなかったが、「after tax credits」のデータがここで見られることが分かった*1。それによると、2009年の控除後ベースの税収は8660億ドルとなっており、フェルドシュタインが控除前税収として用いた9530億ドル*2との差額は870億ドルとなっている。これがdrに相当すると考えると、フェルドシュタインがd=6360億ドル、r=0.3として計算した1910億ドルよりかなり小さい(半分を下回っている)。従って、両者が対応していると考えるのは無理があることになる。


この8660億ドルをベースに(Y-d)(r-r')を計算すると1630億ドルとなる*3。これは小生がデロングの指摘に対応する不等式として8/31エントリに示した
 (Y-d) (r - r') < dr'
の左辺に相当する。この時の右辺は、デロングの指摘する1520億ドルとなるので、約100億ドル不足することになり、フェルドシュタインの主張は崩れる。とは言うものの、その不足分はデロングが指弾した300億ドルの3分の1程度になっている。

*1:そのサイトのIRSのソースへのリンクは無効になっていたが、このページ配下の各種テーブルの数値に対応していることも確認できた。

*2:ただしフェルドシュタインはこのうちの490億ドルは、配当やキャピタルゲインへの課税なので控除対象外、としている。

*3:8660億ドルから前注の490億ドルを差し引いたものが(Y-d)rに対応するとし、r'=0.8rを適用。