マンキューがCharles Blahous*1によるオバマケアの財政分析を「Not a pretty picture」としてリンクしている。
オバマケアの財政への影響については、本ブログでも一昨年の1/21エントリで2010/3/20付けのCBO試算を紹介した。Blahous記事がリンクした今年3月のCBO資料では、そのうちの費用内訳(前回資料の表4)が更新されていたので、3年前の数値と並べる形で以下に示してみる(2010-2019が前回のエントリで紹介した2010/3/20付けのCBO試算、2014-2023が今年3月のCBO試算、単位10億ドル)。
費用項目 | 2010-2019 | 2014-2023 |
---|---|---|
Medicaid & CHIP Outlays | 434 | 710 |
Exchange Subsidies & Related Spending | 464 | 1075 |
Small Employer Tax Credits | 40 | 14 |
費用計 | ||
Gross Cost of Coverage Provisions | 938 | 1798 |
控除項目 | ||
Penalty Payments by Uninsured Individuals | -17 | -45 |
Penalty Payments by Employers | -52 | -140 |
Excise Tax on High-Premium Insurance Plans | -32 | -80 |
Other Effects on Tax Revenues and Outlays | -48 | -171 |
合計 | ||
NET COST OF COVERAGE PROVISIONS | 788 | 1363 |
これを見ると、今後10年間の費用が(4年後方シフトしたこともあり)倍近くに増えていることが分かる。
なお、Blahousは昨年オバマケアの独自の財政分析を行っており、それがWaPo一面に取り上げられたところ、リベラル派ブロガーに袋叩きにされた、ということがあった(クルーグマン、Jonathan Chait、エズラ・クライン、Think Progress、[リベラルではないが]Josh Barro;Bahousの反論はこちら[cf. その紹介記事および関連記事])。
それらの人々の批判の的になったのは、メディケアの支出削減による財政赤字減少をBlahousが二重計算と斬り捨てた点にある。Blahousに言わせれば、メディケアの基金が底を突けばいずれにせよ支出はできなくなるのだから、それをオバマケアによる財政赤字削減に計上するのはおかしい、というわけだ。その主張を批判者は、Blahousは財政計算が分かっていない、として攻撃した。また、Blahousが研究を出版したジョージ・メイソン大学のMercatus Centerにコーク・インダストリーズ*2が出資していることも、リベラル派による攻撃の種となった(ちなみに同センターの所長はタイラー・コーエン)。
今回のBlahous記事についても、デロングは途中で読むのを止めたと一蹴しているが、やはり上述の計上問題がその理由になっている*3。
Blahousは2010/1/22付けCBO資料を二重計算の証左としている*4。だが、その資料では、メディケア支出削減によってメディケア基金が保有する国債の増加に結び付く分(2010-2019年で3580億ドル)のうち、他の支出に転用されてしまう分(=統合政府内で相殺される分;2260億ドル)と、実際に財政余力をもたらして一般保有の国債を減らす分(=実際の財政赤字削減に結び付く分;1320億ドル)をきちんと区別して論じている*5。Blahousは前者の2260億ドルを財政赤字増加だと問題視しているのだが、資料にはその数字は経済的意味が乏しい(that measure of debt conveys little information about the federal government’s future financial burdens and has little economic meaning)と明記されており*6、その点でBlahousはやはり勘違いしているようにも見受けられる(ケビン・ドラムは分かり易い比喩でその点を指摘している)。
*2:cf. Wikipedia(英語)、東京財団記事、ハッフィントンポスト日本語記事、中岡望氏記事。東京財団記事によればリベラル派がコーク兄弟に目を向けるきっかけになったのは2010年のジェーン・メイヤーのニューヨーカー記事とのことだが、こちらではそのニューヨーカー記事の概要が紹介されている。そのほか日本語ブログでは、こちらでシンパの立場から、こちらではアンチの立場から言及されており、こちらではコーク兄弟のパロディ映画が紹介されている。また、こちらでは兄弟のオバマケア反対活動について書かれている。
*3:ただ、前述の本ブログ2011/1/21エントリで紹介したダグラス・ホルツイーキン(Douglas Holtz-Eakin)元CBO局長も、同様にメディケアの支出削減および二重計算を槍玉に挙げているので(それ以外の点についても、ホルツイーキンとBlahousのオバマケア批判には共通項が見られる)、その点を問題視しているのは必ずしもBlahousだけではないようである。
*4:今回の記事だけでなく、去年の研究のp.14でも同資料を参照している。
*5:[2013/10/14]記述修正。元の記述は:
だが、その資料では、メディケア支出削減(2010-2019年で3580億ドル)のうちメディケア基金が保有する国債の増加に結び付く分(=統合政府内で相殺される分;2260億ドル)と一般保有の国債を減らす分(=実際の財政赤字削減に結び付く分;1320億ドル)をきちんと区別して論じている。
*6:同時に「the effects of legislation on debt held by the public offer a more useful measure of that legislation’s impact on the government’s financial condition」とも述べている。