ガイトナー前財務長官の退任当日の1/25に、WaPoが5つの神話シリーズで彼を取り上げた。書いたのはNoam Scheiber。
以下はその概要。
- 彼はウォール街の産物だ
- 実際には彼はウォール街で働いたことはない。民間で働いた唯一の経験は、院を出た直後にヘンリー・キッシンジャーのコンサルティング会社で働いたときのみ。
- 彼と金融界の間に問題があるとすれば、癒着といった話ではなく、知的に囚われていること。官僚として過ごした20年の間に、金融界のエリートたちの視点を身に付けてしまった。NY連銀総裁時代も、金融界の大物が何人か理事会のメンバーになっていた。従って彼が2011年に経済における金融部門の役割の縮小に否定的なコメントを出したのも、驚くべきことではない。
- ガイトナーは温厚で控えめだ
- 経済政策の策定に関しては比較的フリーハンドを握っていた
- 歴史的に言えば最も影響力を持つ財務長官の一人ということになろうが、重要な政策決定において彼の思い通りにならなかったことが幾つかあった:
- 当初彼はボルカールールに反対していたが、大統領が支持しているのを見て態度を豹変させた。
- かつてFDIC議長のシーラ・ベアが、巨大金融機関への監視を強化するための規制当局者の委員会を設立しようとした時、その仕事はFRBに任せておけば良い、と強く反対した。しかしベアは金融安定監視委員会(Financial Stability Oversight Council)を実現させてしまった。
- CFTC議長のゲーリー・ゲンスラーが強力な一般向けキャンペーンを張ったお蔭で、彼の意図したものよりも厳しいデリバティブ規制を受け入れざるを得なくなった。
- 歴史的に言えば最も影響力を持つ財務長官の一人ということになろうが、重要な政策決定において彼の思い通りにならなかったことが幾つかあった:
- 税金や政府支出に関して、ガイトナーは上位1%の代弁者だ
- リベラル派は、財政政策については彼は隠れ共和党員で、財政刺激策の効果を疑問視し、赤字削減のためにメディケアなどの支出削減に熱心だった、と言う。
- 実際には彼は財政刺激策を基本的に支持していたし、減税と財政支出からなる政権の大規模な刺激策に抵抗することもなかった。
- メディケアの削減を支持したのは事実。しかしその一方で、ブッシュ前政権の富裕層向け減税廃止を2010年時点で与党内で一貫して唱えていたのは彼だけだった(議会の民主党もホワイトハウスもその点を争点にすることをなるべく避けていた)。その年の終わりの交渉で彼は、共和党が低所得者層向けの総額数百億ドルに上る一連の税金控除措置を受け入れない限り、支出削減継続の話に応じるべきではない、と主張した。結局、共和党側が渋々折れた。
- 彼のお蔭で金融システムは2008年の危機時よりかなり安全なものとなった
- ガイトナーが成立に尽力したドッド・フランク法は、確かに米国の金融の安定を改善した面もある。しかしマクロ的に言えば、その法案には欠陥がある。
- 2008年以前には、巨大金融機関が米国の金融システムを支配し、規制機関にはそれを監督するだけの十分なリソースが無かったが、政府はその規制機関に頼りきりだった。その結果、当然のごとく危機が生じた。しかし今の金融システムは当時よりもさらに巨大な金融機関に支配されており、規制機関の負荷はますます高まっている。
- そうなった最大の責任はガイトナーにある。NY連銀総裁だった2008年当時、大銀行の合併を幾つかお膳立てしたのは彼だった。翌年オバマは彼を金融改革の最高責任者の地位に就けたが、銀行を小規模かつ単純なものにする代わりに、何百という新しい規則を制定する方向を選んだ。
- そうした方向の危険性は、昨春のJPモルガンの損失事件で明らかになった。銀行があまりに巨大かつ複雑になったので、細かいことで有名な*2ジェイミー・ダイモンCEOでさえ、自行のトレーダーがどれほどのリスクを取っているか分かっていなかった。金融危機の後、ガイトナーは規制当局者により力を与えさえすれば銀行を統制できる、と信じた。JPモルガンはその考えが間違っていたことを証明した。