ジョン・テイラーの財政規律モデルは何であって何でないか

ジョン・テイラーとJohn CoganがWSJに財政規律のメリットに関する論説を寄稿したところ、クルーグマン噛み付き(cf. デロングによるサポート)、テイラーがそれに反論する、という一幕があった。


テイラーらの論説には元論文があり(著者はJohn F. Cogan, John B. Taylor, Volker Wieland, Maik Wolters)、ノアピニオン氏がその主旨を以下の7点にまとめている

  1. 政府が1ドル支出すると民間の支出が1ドル減少するという単純な「大蔵省見解」ではない。
     
  2. テイラーのモデルには政治的不確実性は取り込まれていないので、財政緊縮策が政治的不確実性を減らして投資の抑制要因を取り除くという「信認の妖精」ではない*1
     
  3. 財政緊縮による景気押し上げ効果はすべて減税のお蔭で、財政赤字削減のお蔭ではない。テイラーのモデルには税による歪みが取り込まれており、その歪みは大きい。
     
  4. 「サムナー批判」が取り込まれており、FRBが(財政支出による正の刺激のキャンセルアウトを含め)需要を完全に管理できるものとしている(もちろん、テイラーはサムナーからそのアイディアを得たわけではないだろうが)。
     
  5. ゼロ金利下限を想定していない。そのため、ゼロ金利下限では財政が効くようになるというKrugman=Eggertssonの考えは無視されている。
     
  6. テイラーのモデルでは、政府購入の削減は不況につながるので、テイラーは所得移転の削減を提唱している*2
     
  7. つまるところ、テイラーの結果は標準的なニューケインジアンの結果である。ゼロ金利下限が無く、FRBが財政政策の需要面への影響を相殺し、人々がフォワードルッキングな予想を立て、政府が購買を減らさず、税金が大いに歪みをもたらしているならば、財政規律は効果を発揮する。これは目新しい結果ではないが、これほど明確に示されることはあまり無いので、ジョン・テイラーとその共著者がそれをやったのは結構なこと。ただ、実際にはゼロ金利下限は問題になるとケインジアンは2008年以降主張しているし、論文で仮定している税の歪み効果は大き過ぎるかもしれないし、共和党の移転支出削減の意思を過大評価する一方で政府購買削減の意思を過小評価しているかもしれないし、例によって分配の問題を軽視している*3


クルーグマン嫌いのDavid Andolfattoは、このノアピニオン氏のまとめを(同氏の共和党批判の姿勢を揶揄しつつも)クルーグマン叩きに援用している。ちなみに、そのエントリでAndolfattoが、ここで紹介した対数線形近似の問題点を指摘した論文を持ち出して、ゼロ金利下限で財政が効くという話も嘘くさい、と書いたところ、匿名のコメンターが同論文に猛然と反論したため、Andolfattoが論文の著者の一人であるR. Anton Braunをコメント欄に駆り出して再反論させる、という興味深い展開が見られた。

*1:この点はテイラーもクルーグマンへの反論で指摘している。

*2:cf. 3年前の移転支出批判

*3:元エントリではこの項番は6になっていて、前項と連番が重複している。