消費ギャップと生産ギャップ

16日エントリで紹介したコクランのブログエントリを巡る論争に関連して、Stephen Williamsonが自ブログでエガートソン=クルーグマン論文について改めて評価を下している。彼は論文の概要を紹介した上で、ニューケインジアンモデルの需給ギャップの“問題”を以下のようにまとめている。

If we're at the zero lower bound, and the real interest rate is too high in this environment, then essentially we have a consumption gap, not an "output gap." If the government spends more, that doesn't shrink the consumption gap.
(拙訳)
ゼロ金利下限にあり、実質金利が経済状況に鑑みて高過ぎる時、存在するのは消費ギャップであり、「生産ギャップ」ではない。政府が支出を増やしても、消費ギャップは縮小しない。


ただ、実はこの点については、今回Williamsonがエントリを書くきっかけとなった18日付ブログエントリクルーグマン自身が認めているところである。

As Robert Waldmann says, Cochrane’s latest seems to be driven by a confusion between the effect of fiscal expansion on GDP — which is positive in just about any NK model — and the effect on consumption, which isn’t at all the same thing.
(拙訳)
ロバート・ワルドマンが言うように、コクランの直近記事の論旨は、財政拡大策のGDPへの影響――それはどんなニューケインジアンモデルでもプラスになる――と消費への影響を混同しているように思われる。両者は同じものではまったくない。


Williamsonは、消費ギャップについて財政拡大策が解決を手助けするのは、インフレ率の上昇を通じた実質金利の低下という経路を通じてのみであり、その点を指摘したコクランはまったく正しい、としている。


一方、クルーグマンは、このモデルの非リカーディアン経済では、財政拡大を通じた所得効果によって消費が拡大し、オールドケインジアン的な乗数効果が生じるのだ、としている。


しかし、クルーグマンが強調するこの所得効果については、Williamsonは以下のように一蹴している。

But hold on. This has the flavor of reverse engineering. We're supposed to get excited because we find some result that looks like something we think we already know. If all research proceeded like this, we wouldn't learn anything.
(拙訳)
しかしちょっと待って欲しい。これは一種のリバースエンジニアリングではないだろうか。我々が既に知っていると思っていることと同様の結果を得たから喜べ、ということなのだろうか。すべての研究がこのような手順で進められたら、我々は何も学べなくなってしまう。


Williamsonに言わせれば、このモデルで消費ギャップの問題を解決するのは、(本ブログでは2010/11/28エントリで紹介した)Correiaらの論文で提示された消費税を使った政策であり、財政支出政策ではない、とのことである。彼はブログエントリを以下の文章で締め括っている。

I think the bottom line is that we want to pay attention to what models tell us, not what we hope they might tell us. The model EK want us to pay attention to indeed has a role for fiscal policy. But that role isn't related to spending, multipliers, and Old Keynesian economics. It's about tax policy.
(拙訳)
要は、モデルが何を伝えるかに耳を傾けるべきであって、自分たちがモデルに伝えて欲しいことに耳を傾けるべきではない、ということだ。エガートソン=クルーグマンが我々に耳を傾けて欲しいモデルには、確かに財政政策の役割が存在する。しかしその役割は、財政支出、乗数、オールドケインジアン経済学とは無関係である。それは税政策の話である。