劣等生クルーグマンのための経済学入門

とでも言うべきエントリを少し前にStephen Williamsonが書いている。以下はその出だしの文章。

Paul Krugman is a very bad student. He doesn't pay attention in class, he refuses to read, and he complains constantly that he's not learning anything.
(拙訳)
ポール・クルーグマンは非常に出来の悪い生徒だ。彼は授業では注意散漫で、読むべきものを頑として読まず*1、それでいて自分は何も学んでいないといつも文句を垂れている。


このエントリでWilliamsonが槍玉に挙げたのは、RBCの理論家は直観的な説明を提供していない、と論じたクルーグマン2/17エントリ。それに対しWilliamsonは、以下の図を提示している。

この図を用いたWilliamsonの「直観的な説明」は概ね以下の通り。

  • 図では生産可能性フロンティアと代表的個人の無差別曲線が示されている。ここでは政府は捨象しているため、生産可能性フロンティアは単に消費と余暇の技術的なトレードオフを示している。すべての生産は消費されるため、消費と生産は等しい。
  • 初期では、この経済はA点で均衡している。この経済は取りあえず摩擦が無いとしているため、その均衡はパレート最適となっている。
  • 負のTFPショックにより生産可能性フロンティアは内側にシフトし、B点で均衡する。この時、余暇は増大し、労働時間は減少し、消費(=生産)もまた減少する。これは我々の知っているところの景気後退である。
  • モデルが機能するためには、賃金(=均衡における生産可能性フロンティアの傾きのマイナス値)に対する労働供給の弾力性が十分に大きくならなくてはならないことも示される――所得効果と代替効果を分解すると、TFPが減少すると余暇も減少し得ることが明らかとなる。
  • これはウッドフォード流のキャッシュレス経済であるが、価格がドル建てであると想定することはできる。Pが財のドル建て価格、Wが労働のドル建て価格とすれば、W/Pは実質賃金である。
  • ウッドフォード流に中央銀行がPを決めるとしよう。その場合、名目賃金が伸縮的ならば、負のTFPショックは上と同じ結果をもたらし、均衡はAからBに移る。
  • 一方、中央銀行TFPショックに対して何も対応せず、Wが固定されているならば、TFPショック後の均衡はBではなくDとなる。Dでは実質賃金はAと同じである。即ち、生産可能性フロンティアの傾きはAとDで等しい。従って、ニューケインジアンの世界では経済がショックを与えられた時に非効率性が生じ、厚生損失を図で確認することができる――代表的個人はDではBよりも低位の無差別曲線上にある。
  • ニューケインジアンの世界では、中央銀行はPを上昇させることができる。もしくは、財政当局が雇用に補助を与え、それを一括税で賄うことができる。いずれの手段を用いるにせよ、適切な政策によってBに到達することができる。


なお、Williamsonが槍玉に挙げたエントリでクルーグマンは、ここでファーマー経由で紹介したマーシャル流の考え方――即ち、数学を離れて英語で描写すること――の重要性を強調しているので、このWilliamsonの説明はクルーグマンの問い掛けへの回答にはなっていないようにも思われる(ただしWilliamsonはエントリの最後で、数学抜きの言葉だけの説明が欲しければKartikの本を読め、とも書いている)。

*1:ここで彼は自ブログの以前のエントリにリンクしているが、そのエントリでWilliamsonは、Kartik Athreyaの本を巡る一件クルーグマンが本を読まずにブログエントリを書いたことを槍玉に挙げている。