経済学徒が知っておくべき5つのこと

についてハーバード公衆衛生大学院(Harvard School of Public Health)のDavid Hemenwayがreal-world economics reviewなる学術誌直近号書いている(H/T Mostly Economics)。


以下がその5項目:

  1. 人間は孤立した生き物ではなく社会的動物である
  2. 嗜好は変更可能で、特に子供と若者においてそうである
  3. 世の中には子供と若者が大勢いる(経済学の教科書にはほとんど姿を見せないが)
  4. 小売の購入者が自分の買う製品について詳細な情報を持っていることは滅多にない
  5. 大企業(やその他の経済的機関)は社会的および政治的な力をかなり持っていることが多い

当初Hemenwayは、機会コスト、限界分析、モラルハザード、外部性、囚人のジレンマゲーム、といったことを挙げようとしたが、結局は経済学に教科書にあまり出てこない上記項目にしたという。


その上でHemenwayは、以下のようなことを書いている。

  • ミクロ経済学においては、人々が合理的であること、および、嗜好は外生的であること、が大原則になっている。
  • 行動経済学はそこに風穴を開けたが、主に合理性の問題に焦点を当ててきた。
  • その一方で、人間は熊と違って社会的動物であり、社会や文化は嗜好に影響を与える、ということはいまひとつ見過ごされてきた。
  • 例えば煙草は上記の5項目の重要性を示す好例になっている。公衆衛生の観点からすると、煙草の引き起こす病気は米国で本来防ぎ得る死亡原因の最大のものであり、じきに世界でもそうなると考えられる。もし新製品だったならば、米国での販売が許可されたかどうか疑わしい。それは喫煙者に害を及ぼすのみならず(米国での死者は年間40万人以上)、受動喫煙も疾病のリスクを大いに高める。
  • 20世紀はじめには、喫煙は下品な習慣で卑しい人間のする道徳性の欠けたこととされ、ヘンリー・フォードが喫煙者を雇わないと宣言し、多くの州が煙草の販売を禁止するほどだった。その後50年間で状況は一変し、米国の成人の半数が煙草を吸うようになり、米国の生活様式の一部となった。
  • 煙草会社は若者をターゲットにし、購入者にその中毒性を十分に伝えず、政府に影響力を行使した。我々は他国にコカインの輸出をやめるように要請する一方で、煙草の輸出を促進している。21世紀の煙草による死者は世界で10億人に達すると見込まれる。
  • The Cigarette Century: The Rise, Fall, and Deadly Persistence of the Product that Defined America」で以上のことを報告したAllan Brandtは、煙草産業のことを「ごろつき産業」と呼んだ。だが、経済学者の目から見れば、彼らは自己の利益を最大化するというどこの産業の企業でもやっていることを実施しているに過ぎない。例えばソフトドリンク業界において、煙草業界で行われたように内部文書が強制的に開示されることになれば、同様の行状が明らかになるだろう。