ドラギが明らかにした欧州危機の主因

Social Europe Journalという電子ジャーナルで、アンドリュー・ワット(Andrew Watt)*1が3/14のEUサミットにおけるドラギ講演の問題点を指摘している(H/T Economist's View)。


それによると、ドラギはグラフを用いて以下の点を示したという:

フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングによると、この講演を聞いていたオランド仏大統領は、財政緊縮策に反対し成長刺激策を求めていたにも関わらず、欧州(ないしその一部の国)の問題点を示す明白な証拠を突きつけられて、押し黙ったままだったとの由。


しかし、そのドラギ講演には致命的な誤りがある、とワットは指摘する。それは、生産性は実質ベースで表示されている一方で、賃金が名目ベースで表示されていることである。その問題点について、ワットは次のように説明する:

  • 仮に実質賃金の伸びが実質生産性の伸びに沿うならば、国民所得における賃金と企業利益のシェアは一定に保たれる。
  • 名目賃金が実質生産性の伸びに沿うならば、国民所得における賃金のシェアは右肩下がりに下がっていく。しかも、仮に物価上昇率名目賃金上昇率よりも高ければ、実質賃金が低下していく。
  • インフレ率がECBの目標(1.9%)通りになっている国では、生産性と賃金のグラフは年率1.9%の割合で乖離していくと予想される。通貨統合後の12年の累積乖離率は28%近くになる。
  • 仮にフランソワ・オランドがそれに気付いていたとしたら、黙っている必要はまるで無かった。むしろ、自国がほぼ完全にそのベンチマーク通りになっていることを指摘できた(ドラギのグラフからは、フランスの累積乖離率はおよそ32%であることが読み取れる)。
  • また、ドラギが模範生として扱ったドイツは、均衡の取れた成長を達成するための安定性の基準からは常に下方に乖離していたことになる。それこそが危機の主因だったのだ。

その上でワットは、ドラギは意図せずして危機の真相を明らかにした、と揶揄している。また、ドラギは基本的な経済概念を知らないか、もしくは、自分のイデオロギーに沿う方向に政策当局者を動かそうとして故意に誤ったグラフを示した、その方向はむしろユーロ圏の安定と回復を損ない、自らの使命にも反するものだ、と手厳しくドラギを批判している。

*1:Macroeconomic Policy Institute (IMK) at the Hans-Böckler-Foundationなる非営利の研究所を率いているとの由。以前は欧州労働組合研究所(European Trade Union Institute)のシニア・リサーチャーだったとのこと。