原油価格の低下は景気後退をもたらし得るのか?

24日エントリ原油価格が実体経済の悪化につながるかどうかについてのクルーグマンとブランシャールの対照的な見方を紹介したが、ジェームズ・ハミルトンが表題のブログエントリで、その二分法で言えばクルーグマン側の見解を示している(原題は「Can lower oil prices cause a recession?」。H/T Economist's View本石町日記さんツイート*1)。


ハミルトンのエントリはドナルド・ラスキンWSJ論説をとば口に原油価格低下の影響を論じているが、その概要は以下の通り。

  • 米国の原油や石油製品の純輸入は一日およそ510万バレル。そのため、1バレル=100ドルでは、米国経済からは毎年1900億ドルが流出していた。今やその流出は半分以下になっている。
  • 消費者というのは臨時収入をすぐに使ってしまうが、生産者が支出計画を変えるのには時間が掛かる。そのため、仮に米国が石油の純輸入国でなかったとしても、短期的には景気刺激効果があったはず。
    • しかし、2015年3月までの実際の総消費支出の変化は、過去の相関に基づいた予測に比べ0.4%小さかった。
    • 一方、ガソリンを普段大量に購入する人とそうでない人を比較すると、消費者が臨時収入をほぼ使い切ってしまうという話と整合的な結果が得られた、という研究もある。
    • このマクロとミクロの矛盾する結果は、マクロで何か別の逆風が働いていたことを示している、というのがハミルトンの引き出した結論。
  • いずれにせよ、米国の石油生産者が支出を削減するのに十分なだけの時間は既に経過している。
    • 消費者の1ドルの支出増加と生産者の1ドルの支出減少は経済にとって差し引きゼロではない。原油採掘にはそれに特化した労働や資本が係わっており、石油産業が傾いたからと言って、それらはコストなしに別の産業に振り替えられるものではない。
    • 1988年のハミルトンの論文では、原油価格が失業の増加につながるモデルを示した。
    • 当然ながら、石油産業で働く人だけではなく、石油産業に財やサービスを販売する人や、さらにその川上の人も影響を受ける。最近の分析によると、新たな石油やガスの産業が無かったならば、大不況期の雇用者は72.5万人少なく、失業率は0.5%ポイント高かったという。
  • ということで、原油価格低下は米国経済にとって押し上げ要因とも押し下げ要因ともなり得る。
    • 原油価格低下の影響を調べた多くの研究は、米国の実質成長率に原油価格低下はほとんどプラスの効果をもたらさない、と結論している。
    • かつて原油価格は1985年11月の30ドル/バレルから1986年7月の12ドルに低下したが、1986年の経済成長率は2.9%で、通常より高くも低くも無かった。ただし、同年はテキサスをはじめとする石油を産出する州にとっては良くない年だった。
  • また、原油価格と米株式市場の連動性が最近驚くほど高いことも懸念材料となっている。
    • 原油価格と中国株式市場の連動性はさらに高い。原油価格が中国経済に影響を与えているわけではなく、中国が原油価格を動かしていることに鑑みると、世界経済の減速ないし景気後退が原油価格を低下させている要因になっているのではないか、と懸念される。
    • 原油価格と株価の因果関係がどうあれ、テキサスやノースダコタの人々が大いに心配すべきことに変わりない。

*1:なお、本石町日記さんはハミルトンがむしろブランシャール的な見解を有しているような書き方をされているが、それはおそらく誤読かと思われる。