金融と銀行に関するノーベルシンポジウム(Nobel Symposium on Money and Banking)が5月末に開かれ、バーナンキとアイケングリーンが2日目の第一セッション「世界金融危機、および過去の危機からの教訓(Lessons from the global financial crisis, and crises past)」で講演した(H/T ジョン・コクラン)。討論者のブランシャールが、2人の講演を基に、金融危機を発生源によって5つの段階に分類し、米国と欧州の大恐慌、および大不況、という実際に起きた4つの危機と比較対照している。
- 借り手のバランスシート
- 幾つかの資産価格と住宅への負のショックから始まる(米国、スペイン、アイルランド)
- バランスシートの悪化→担保価値の低下→借り入れの縮小→支出の低下→生産の減少→バランスシートの悪化
- 乗数は普通…当初のレバレッジ次第(住宅不況とITバブル崩壊との対比)
- 標準モデルへの組み入れは容易…増幅メカニズムの組み込み
- 貸し手のバランスシート
- バランスシートの悪化→資本の低下→融資の縮小→支出の低下→生産の減少→バランスシートの悪化
- 住宅…米国、スペイン、アイルランド→海を渡ってドイツの銀行に波及
- 乗数は上昇…当初のレバレッジが高い
- やはり標準モデルへの組み入れは容易…増幅メカニズムの組み込み
- 負債の取り付け騒ぎ、金融の急停止、借り換え危機、銀行間市場の凍結
- 不確実性(一部ナイトの不確実性)…債務履行能力の問題か、それとも流動性の問題か?
- 負債の取り付け騒ぎ→資産の投げ売り、ないしそれより事態が悪化→融資の縮小→支出の低下→生産の減少→バランスシートの悪化
- 乗数は高い…複数均衡の発生*1
- 最後の貸し手が極めて重要な役割を担う…大恐慌と大不況との対比
- 暗黙の保証も極めて重要な役割を担う
- バーナンキの考察はレベル3までだったが(米国の大不況についてはそれで良い)、一般論としてはさらに2つの段階および増幅や悪化の発生源が考えられる
- 国と金融機関の間の相互作用(「破滅の円環、魔の円環、死の抱擁」)
- 銀行のバランスシートの悪化→救済可能性の上昇→公的バランスシートの悪化→救済可能性の低下
- 財政乗数均衡…上記と関連するが別の事象
- 低金利ならば公的債務は維持可能
- 高金利ならば公的債務は維持不可能
- 公的債務が維持不可能ならば金利は上昇
- 乗数は大きく、複数均衡が発生…財政状況、解決過程、銀行のバランスシートにおける国債の保有状況次第
- 米国の大恐慌では起きなかった(救済可能性は低かった)
- 米国の大不況でも起きなかった(財政状況がしっかりしていた)
- 欧州の大不況では大きな役割を演じた
- 為替相場制度の役割
- 変動相場制…減価
- 国内需要に通常のプラスの効果
- 対外債務の問題…負のバランスシート効果
- その後、前項のメカニズムに復帰
- 固定相場制
- 金利引き下げ余地が限定的…最後の貸し手機能を制約する可能性(アイケングリーンの大恐慌の分析)
- 通貨切り下げリスク(ユーロ圏では「再デノミ」リスク)…スプレッドが拡大
- その後、前項のメカニズムに復帰
- 米国の大不況とは無関係(セーフヘイブンだったため)
- 米国以外の大恐慌とは関係あり
- 大不況時の南欧のユーロ圏とは大いに関係あり
- 政策対応
- 各段階の乗数を下げ、複数均衡の可能性を下げる
- 影響を可能な限り段階1に近いところにとどめる
- 高い乗数、複数均衡…DSGEにとって取り込みは容易ではない