原油輸入減少が米貿易赤字に与える影響

シェールガス革命による米国の原油輸入量の減少は、長期的には米国の貿易収支に影響しない、という主旨の表題のレポート(原題は「Implications of Reduced Oil Imports for the U.S. Trade Deficit」)を、Robert Z. Lawrenceハーバード大教授が外交問題評議会のサイトで掲載した。それをWaPoのWonkblogでBrad Plumerが紹介したところ、記事中の「原油ブームが投資貯蓄バランスを変えない限り、貿易収支は変わらない」というLawrenceの言葉にディーン・ベーカーが自ブログで噛みついた(H/T ピーター・ドーマン@Econospeak)。しかしそのブログのコメント欄にLawrenceが降臨し、原論文をきちんと嫁、自分は現在のような失業率の高い短期と雇用が一定と考えられる長期とを区別しており、短期の分析はベーカーのブログエントリの分析とあまり変わらん、と反論したところ、ベーカーは、ご指摘のように読んでいませんでした、WaPo記事は正しく貴兄の見解を伝えていなかったようですね、意見が一致して喜ばしい、とあっさり降伏した。

以下はLawrenceがレポートで示した結果をまとめた表。

原油輸入量減少の理由 短期的結果 長期的結果
原油産出量の増加 ・米貿易赤字への影響は不定
・外国産の原油購入減少によって節約された1ドルにつき米貿易赤字は20〜80セント減る*1
・節約された1ドルにつき米貿易赤字は最大60セント増える*2
・米貿易赤字への影響は最小限に留まる
原油輸入で節約された1ドルにつき米貿易赤字の減少は最大10セント*3
原油の貿易収支の改善はそれ以外の貿易赤字の増加で相殺される
原油消費量の減少 ・米貿易赤字は減少する
原油輸入で節約された1ドルにつき米貿易赤字は20〜80セント減る
・米貿易赤字への影響は最小限に留まる
原油以外の購入が増え、その一部は輸入される
原油の貿易収支の改善はそれ以外の貿易赤字の増加で相殺される

*1:節約分による所得増加の大半が支出に回るとして、乗数を1〜2、限界輸入性向を0.2〜0.4の範囲と考えて試算。

*2:資本係数=3として、1ドル分の原油生産増加につき3ドルの国内投資が必要になるとすると、所得は4ドル増加。乗数1、限界輸入性向0.2ならば、輸入は80セント増え、貿易収支の改善は20セントに留まる。ただし、投資が実施された後は、貿易収支の改善は80セントまで高まっていく。一方、乗数効果が2ならば、所得は8ドル増加し、輸入は1.6ドル増え、貿易収支はむしろ悪化する(ちなみにLawrenceは後者の試算でも限界輸入性向を0.2としているが、それを0.4とすれば、輸入の増加は3.2ドルとなり、貿易収支の悪化は60セントではなく2.2ドルとなる)。

*3:2011年の原油貿易赤字GDPの2.2%。また、米国の貯蓄率はGNPの12.2%。原油関連の所得増加の貯蓄率が2倍になるという極端な仮定の下でも、貯蓄率は2.2%×0.122=0.27%改善するに過ぎない。