ナッティー・プロフェッサー

コチャラコタの金融緩和積極派への“転向”を取り上げた1/27付けNYT記事で引用されたプレスコットの以下の発言が話題になっている。

It is an established scientific fact that monetary policy has had virtually no effect on output and employment in the U.S. since the formation of the Fed.
(拙訳)
FRBの創設以来、金融政策が米国の生産と雇用に事実上何ら影響をもたらさなかったというのは確立された科学的事実だ。


Chris Houseはその発言に対する各人の反応を1/30付けブログエントリで以下のようにまとめている。

Paul Krugman says this statement reveals that Prescott is part of “an irrational cult.” Noah Smith takes this as evidence that the Nobel Prize in economics is screwed-up because, just a few years after Prescott won the Nobel, Chris Sims won and Sims thinks that monetary policy has real effects. Steve Williamson says that Prescott might simply be trying to be provocative (though he also admits that perhaps there is a case to be made that Prescott is right).
(拙訳)
ポール・クルーグマンは、この発言はプレスコットが「非合理的なカルト」の一員であることを明らかにした、と述べている。ノア・スミスは、これを、ノーベル経済学賞が混乱状態にある証だとしている。というのは、プレスコットノーベル賞を受賞した僅か数年後にクリス・シムズが受賞し、シムズは金融政策には実効性があると考えているからだ*1Steve Williamsonは、プレスコットはわざと挑発しているだけだ、と言う(同時に、場合によってはプレスコットが正しいと主張することも可能だ、と認めている)。


House自身は、プレスコットの発言が間違いだと認めた上で、ノーベル賞はそれまでの常識を引っ繰り返す発想に与えられるのであり、平均的にバランスの取れた優れた洞察力を持っていることに与えられるわけではない、とプレスコットを“弁護”している。そうした優れた発想の持ち主は得てして他のことについては気違い染みた考えを持っているものだ、とHouseは言う。またHouseは、クルーグマンを例に挙げ、彼は貿易に関しては権威であるが、医療政策や税政策や景気循環ファイナンスについては貿易ほど精通しているわけではない、と述べている。ただ、プレスコットを擁護するあまり、「ポール・クルーグマンでさえ時折りかなりいかれたことを言うことで知られている(Even Paul Krugman has been known to say some rather nutty things at times)」という一言を付け加えたため、具体的にクルーグマンプレスコット級のいかれた発言をした例を挙げよ、とコメント欄でデロングらに問い詰められたほか、クルーグマン本人からも、そうした具体例を挙げるのを拒否しているね、と皮肉られている


ただ、クルーグマンはHouseの見解は正しいと認めており、ノーベル賞のような大きな賞を取るのは得てして狐ではなくハリネズミなのだ*2、と述べている。ただ、その一世一代のホームランが間違いだった、ということも良くあることで、その間違いを認めないのは人間の性としてやむを得ない面もあるが、道徳的には罪だ、と断じている。問題は何百万という人々の生活を左右する現実の政策に関する話であり、例えば金融政策について正しく把握する最善の努力よりも自分のエゴを優先させるならば、それは真に下劣な行為だ、とプレスコットを厳しく批判している。

*1:このノアピニオン氏のエントリにはTony Yatesが反応し、新しい手法の開発と議論の礎を築いただけでもキドランド=プレスコットノーベル賞に値する、と反論している(そのほか、シムズも金融政策が実体経済に中立的ではないということを示したとしても、景気循環の主因ということまでは示していないので、キドランド=プレスコットの元の主張とは矛盾していない、とも述べている)。

*2:この喩えについてはここ参照。