コチャラコタ変心の理由を語る

自サイトへの1/25付けの投稿でコチャラコタが、ミネアポリス連銀総裁時代に金融政策についての考え方を変えた背景を説明している(H/T Economist's View)。
以下はその冒頭部。

I’m often asked about why I changed my mind about the appropriate stance of monetary policy in 2012. I think that this question is typically aimed at trying to get at something personal - and I’ll attempt such an answer at a later date. But in this post, I’ll use a more technical approach to addressing the question. I’ll demonstrate through an example how even small amounts of evidence can lead a Bayesian updater to large changes in their beliefs about the validity of extreme models.
(拙訳)
2012年に適切な金融政策のスタンスについての考え方をなぜ変えたのか、と良く聞かれる。この質問は、何か個人的な話を聞こうとして投げられることが多いように思われる。その期待に応える回答は後日に回すこととして、このポストでは、もっと技術的なアプローチを用いて件の質問に答えることとする。僅かばかりの証拠でも、極端なモデルの有効性に関するベイズ更新者の信念をいかに大きく変化させるか、を例を使って説明する。


ここでコチャラコタが提示した例は概ね以下の通り。

  • 意思決定者が、コイン投げについて以下の2つのモデルを持っているものとする。
    • モデル1:表が出る確率は0.99
      • これは、2009年にコチャラコタが信じていた、総需要要因はマクロ経済において極めて短期間しか問題にならない、というモデルの比喩。
    • モデル2:表が出る確率は0.5
      • これは、現在コチャラコタが信じている、総需要も総供給も長期に亘って問題となる、というモデルの比喩。
  • ハト派タカ派か、の意思決定の選択において、モデル1の事後信念が0.5以下に落ちた場合(およびその場合のみ)ハト派の選択が最適となる、といった形の意思決定の枠組みは容易に設定可能。
    • 観測値の圧倒的大多数が表になると予言する点でモデル1は極端なモデル。
  • その極端なモデル1の事前確率をqとすると、裏が出た場合、事後確率はq/(50-49q)となる*1
    • この更新関数は非線形性が高く、ドグマ的な事前確率についても、ベイズ更新は新情報に積極的に反応する。例えばq=0.99として、モデル2が正しい確率が百に一つだとした場合、裏が1回出ただけで、事後の確率はおよそ2/3に低下する*2。裏が2回続けて出ると、事後確率は4%以下になる*3。即ち、裏が2つ出ると、ベイジアンは強力なタカ派から強力なハト派に転身する。
  • 直観的に言えば、モデル2が真の場合よりもモデル1が真の場合の方が、2回連続で裏が出ることは起こりにくい。従って、2回裏が出てしまうと、比較的ドグマ的なベイジアンでさえモデル1からモデル2に転向せざるを得なくなる。
  • モデル1をあまりに極端に設定した一方で、モデル2をあまりにバランスが取れた設定にしたことは不公平だ、と言う人もいるかもしれない。そこでモデル2をより極端にして、裏の確率が0.5ではなく0.75になるとする。その場合、ベイズ更新者はデータに一層敏感になる。即ち、モデル1の事前確率を0.99としたベイジアンタカ派は、裏が2回連続で出ると、モデル1の事後確率が2%以下になる*4


コチャラコタは最後を以下のように結んでいる。

Does this example represent an absurdly simplistic way to model the complex decision-making that is involved in monetary policy? Absolutely. But I believe that it helps give a little bit of a feel for why even small amounts of data can lead to large changes in the beliefs of a Bayesian updater.
(拙訳)
この例は、金融政策に纏わる複雑な意思決定をモデル化する上で馬鹿馬鹿しいほどの単純化になっているだろうか? それは間違いなくそうだ。だが、僅かばかりのデータでもなぜベイズ更新者の信念を大きく変えることがあるのか、という点についての感覚を少しは掴む助けになるかと思う。

*1:ベイズの定理
  P(Hi|D)=P(Hi)P(D|H0)/Σj{P(D|Hj)P(Hj)}
において、i=1,2、H1をモデル1、H2をモデル2、Dを裏が出たこととすると、
P(H1)=q、P(H2)=1-q、P(D|H1)=0.01、P(D|H2)=0.5より、
  P(H1|D)=0.01q/{0.01q+0.5(1-q)}=q/(50-49q)

*2:0.99/(50-49*0.99)=0.66442953。

*3:上の式でP(D|H1)=0.0001、P(D|H2)=0.25となるので、
  P(H1|D)=0.0001q/{0.0001q+0.25(1-q)}=q/(2500-2499q)
これにq=0.99を代入すると、0.038091574。

*4:上の式でP(D|H1)=0.0001、P(D|H2)=0.75^2となるので、
  P(H1|D)=0.0001q/{0.0001q+0.75^2(1-q)}
これにq=0.99を代入すると、0.017295597。