政府の基礎研究援助は経済成長に不可欠

昨日のエントリでディーン・ベーカーの記事を取り上げたが、それを紹介したEconomist's Viewポストではもう一つ面白い記事を紹介している。それは、The Science Coalitionという44の研究大学を会員とする団体(要は科学研究者のロビー団体らしい)が出したニュースリリース(リンク先はEurekAlertというニュースサイト)である。そこでは、政府の資金援助がいかに優れた米国企業を生み出す手助けになり、延いては米国経済の長期的成長に役立ったか、ということが力説されており、ここで紹介したロドリックの産業政策礼賛に通じる話が書かれている。


リリースの元になった具体的なレポートはこれ。要旨の拙訳は以下の通り。

  • 連邦政府は米国における基礎研究の第一の資金提供者であり、資金の約60%を提供している。基礎研究の第二の資金提供者は学術機関自身である。
  • 大学は米国の基礎研究の大半を行なっている――2008年で55%である。企業や産業界は米国の基礎研究の20%以下を行なっているに過ぎない。
  • 基礎研究は知識獲得のために行なわれており、科学的発見や理解には不可欠である。基礎研究は技術革新過程の最初の一歩である。
  • 大学での基礎研究に端を発する基礎研究は、数え切れないほど多くの企業を生み出してきた。研究大学から生まれた企業は、それ以外の起業よりも遥かに高い成功率を誇り、優れた雇用を創造し、経済活動を活性化してきた。
  • 米国は、あらゆる資金提供源からの研究開発支出において世界をリードし続けている。しかしながら、中国やその他の国も研究開発に積極的に投資して、自らの技術革新能力を高めようとしている。
  • 米国の世界における競争力や長期的な経済の健全性を保つためには、米国が毎年多額の投資を継続することが不可欠である。


ただし、レポートの内容はあまり経済学的ないし統計学的なものではなく、米国の大学発の代表的な100社をピックアップし(その選択が恣意的なものであることは認めている)、それらの企業の成長に如何に連邦政府が関与してきたか、ということを列挙している。
たとえば、成功例として以下のような記述がある。

  • もう一つの例はノースカロライナに本拠地を置くSAS。米国農務省の援助を受け、SASノースカロライナ州立大学における農業データ分析の研究プロジェクトとして生を受けた。今日では同社は世界最大の非公開ソフト会社であり、ビジネスの分析ソフトならびにサービスのリーディング企業である。SASの従業員数は11,000人以上である。

その他、やや馴染みの薄い企業として、米海軍の援助を受けて院内感染対策の新技術を開発したSharklet Technologies, Inc.(フロリダ大学発)、エネルギー省の援助を受けてリチウムイオン電池を開発したA123 Systems(MIT発)、国立衛生研究所の援助を受けて肺表面活性剤を開発したONY, Inc.(バッファロー大学発)が挙げられている。


また、上記の要旨では大学発の企業は成功率が高い、という記述があるが、その根拠はこのAUTMレポートと、今回のレポートにおけるサンプル企業の創業からの経過年数(下図)である。


なお、レポートには、サンプル企業が援助を受けた政府機関や、サンプル企業の規模(従業員数で6段階に分類)も掲載されている。そこで、両者のデータを合わせてグラフにしてみた(複数の政府機関から援助を受けた場合は重複してカウントしている)。

これを見ると、国立衛生研究所(NIH)と国立科学財団(NSF)の寄与が目立つ。ただし、この分類では国防総省DOD)がDARPAや陸海空軍に細分化されているため、それを合わせるとNIHに次ぐ社数となる。



日本では最近、民主党政権の仕分けによる国からの研究費カットが問題になったが、それへの対抗策として、こうした米国における科学研究関係の圧力団体の活動に見習うべきところがあるかもしれない。