オバマ政権の景気刺激策は百万の民間の雇用を破壊した

という主旨の論文にマンキューがブログでリンクした(論文のタイトルは「The American Recovery and Reinvestment Act: Public Sector Jobs Saved, Private Sector Jobs Forestalled」で、著者は西オンタリオ大学のTimothy Conleyとオハイオ州立大学のBill Dupor)。
以下はマンキューが引用した論文の冒頭の一節。

Our benchmark results suggest that the ARRA created/saved approximately 450 thousand state and local government jobs and destroyed/forestalled roughly one million private sector jobs. State and local government jobs were saved because ARRA funds were largely used to offset state revenue shortfalls and Medicaid increases rather than boost private sector employment. The majority of destroyed/forestalled jobs were in growth industries including health, education, professional and business services.
(拙訳)
我々のベンチマーク推定結果では、米国再生・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act=ARRA)は州ならびに地方政府のおよそ45万の職を創出/救済したが、約100万の民間の職を破壊/抑止した。州と地方の政府の仕事が救済されたのは、ARRAの資金の多くが民間部門の雇用には回らず、州の歳入の落ち込みの相殺やメディケイドの増額に使われたためである。破壊/抑止された職は主に医療、教育、専門・企業サービスなどの成長産業であった。


これについてノアピニオン氏が、論文の結果が統計的で有意では無いことを指摘した。景気刺激策が雇用の成長に与える影響をまとめた論文の表では、推計結果と併せてその信頼区間を示しているが、通常の95%の代わりに90%の信頼区間を示しているにも関わらず、上限は概ねプラスになっているという。従って、推計結果のマイナスは有意では無い、というわけである。
また、ノアピニオン氏のコメント欄では、以下のような指摘もなされている。

  • 州レベルの推定結果をそのまま全国レベルの話に当てはめるのは、合成の誤謬の典型例。
  • 論文では、雇用の減少が大きいところに刺激策の資金が多く回ったという逆の因果関係が入り込むのを防ぐために操作変数を用いたとのことだが、著者たちが使用した操作変数では防げないのではないか*1――そもそも刺激策と雇用の関係を見ようとする場合、操作変数に使える変数は存在しないのではないか。


ノアピニオン氏はまた、この論文をブログでリンクしたマンキューの真意を訝しんでいる。それに対し、このノアピニオン氏のエントリを自ブログで紹介したデロングは、共和党支持者には目的達成を公正な分析に優先する輩が多い、というようなことを書いてマンキューを当てこすっている。



一方、タイラー・コーエンもこの論文にリンクした。そのコーエンのリンク経由で論文を読んだアーノルド・クリングは、左派陣営は金利が低いのだからこうしたクラウディングアウトは起きるはずがないと考えるが、クリングの持説である「専門化と取引の持続可能なパターン(Patterns of Sustainable Specialization and Trade=PSST)」という視点から見れば起き得る話、というようなことを述べている
さらにそのクリングのエントリを受け、Modeled Behaviorのカール・スミスが、PSSTがまた前面に出てきた、というようなタイトル(=「PSST Back on the Front Burner」)のブログエントリでこの話題を取り上げている

*1:ちなみにノアピニオン氏は、操作変数がまずい可能性は認識しているが、敢えて取り上げない、と本文に書いている。