起業の雇用創出効果

アトランタ連銀のmacroblogで、ジョン・ロバートソン(John Robertson)が小企業が雇用創出に果たす役割について考察しているEconomist's View経由)。
そこでロバートソンは、労働統計局のBusiness Employment Dynamics (BED) データから作成した以下のグラフを提示している。

この図からロバートソンが導き出した考察は以下の通り。

  • 小企業(ここでは従業員数50人未満と定義)の起業が純雇用創出に占める役割は大きい(四半期ベースで平均100万人)。実際のところ、新規企業を除いて既存の企業だけを見ると、平均的には雇用創出より多く雇用破壊している。
  • 起業がもたらす雇用創出は時系列的に比較的安定している。2007年末から2009年半ばに掛けての景気後退期においても、新規企業が創出した雇用の低下幅は驚くほど小さい。
  • 退出企業による雇用喪失は、今回の不況においてもそれほど増大しなかった。実際のところ、退出企業がもたらす雇用破壊は、時系列的に比較的安定している(研究によれば、企業は店仕舞いする前に大抵は小さくなるという事実のほかに、退出する企業の多くは最近起業したが失敗した企業であるという「上昇か然らずんば退出か(up or out)」現象も顕著に見られる)。
  • 雇用の循環的な動きの大部分は、継続企業によってもたらされている。しかも、比較的大きな継続企業が、雇用の純変化の変動の大半を担っている。2007年末から2009年半ばに掛けての景気後退期において、50人以上の継続企業における雇用喪失は、50人未満の継続企業における雇用喪失のおよそ倍である(大企業と小企業の相対的な景気循環への反応度については、たとえばMoscarrini and Postel-Vinayの研究を参照)。

ただ、これらの考察が現象の記述に過ぎないことはロバートソンも認めている。そこで、こうした現象をもたらす因果関係についても考察を深めたいところであるが、残念ながらそれについては既存の研究では十分な回答が得られておらず、謎のままである、とロバートソンは述べている。たとえばカウフマン財団のDane StanglerとPaul Kedroskyの研究でも、明確な結論は出ておらず、その代わり以下の余談のような結果が幾つか得られている、との由。

  • ベンチャーキャピタルの支出と全体的な起業の相関関係は無きに等しいが、ハイテク分野では重要な役割を果たしている。
  • 大学での起業コースの数は近年大幅に増加したが、それは米国のスタートアップの数にはそれほど影響を及ぼしていない(ひょっとしたら低下を防いだということはあるかも知れないが)。

最後にロバートソンは、新規企業の数に焦点を当てるのは間違いかもしれない、と書いている。カウフマン財団のDane Stanglerの研究によると、実際に大きな雇用創出と技術革新をもたらすのはほんの一握りの企業であり、そう考えると数よりは質が問題ではないか、というわけだ。従って、そうした大化け企業を生み出す経済環境の維持が長期的な経済成長の鍵である、という、ある意味極めて陳腐な結論で彼はこのエントリを締めくくっている。


なお、小企業に好意的な文章を書こうとしているためか、ロバートソンは図を見て明らかな現象に触れていない。それは即ち、小企業の創業による雇用創出と、小企業の退出による雇用喪失が同程度(共に四半期ベースで約100万人)、という点である。つまり、単純に50人以下の企業の参入と廃業を通算すると、雇用に与える純効果はゼロに近くなる。

ロバートソンのエントリを知ってか知らずか、この点を指摘して、小企業偏重の風潮を批判したのがディーン・ベーカーである(Economist's View経由)*1

...small businesses are not special engines of job growth. Small businesses do create most new jobs, but they also lose most new jobs. Half of new businesses go under within four years after being started. Jobs do get created when the businesses start, but jobs are lost when the businesses fail.

The reality is that businesses of all sizes create jobs. There is no special reason to favour small businesses in promoting job creation. We should favour businesses that create good paying jobs with good benefits and conditions, regardless of their size.

Banks failing to lend is not the problem | Dean Baker | Opinion | The Guardian

(拙訳)
小企業は雇用成長の特別なエンジンというわけではない。小企業は確かに新規雇用の大半を創出しているが、同時に新規雇用の大半は失われる。新規企業の半数は4年以内に倒産する。起業時には雇用は確かに創出されるが、廃業時には雇用は失われるのだ。
実際には、あらゆる規模の企業が雇用を創出する。雇用創出を促進するために小企業を優遇する特別な理由は無い。規模に関わらず、給与が高くて福利厚生や労働条件の良い雇用を創出する起業を優遇すべきである。

ちなみにこのベーカーのガーディアン記事の主眼は、現在の米経済においては銀行の貸し渋り――特に小企業に対する貸し渋り――が問題となっている、という通説を批判する点にある。そうではなく、需要不足が問題なのだ、というのがベーカーの主張である。

*1:cf. この記事