日本は最適通貨圏か?

一昨日のエントリでは、ギリシャ危機をきっかけとしたユーロを巡るマンキューとクルーグマンのやり取りを紹介した。そこでクルーグマンがリンクしたデビッド・ベックワースは、2次元の座標図を使用して最適通貨圏を視覚的に捉える方法を紹介している。彼は、以前のエントリで、実際にその方法を用いてギリシャが最適通貨圏から外れていることを示している(下図)。

ここで縦軸は工業生産成長率の対ユーロ圏全体の相関係数であり、横軸はインフレ率と雇用保護の程度(6段階で評価)から求めた衝撃吸収係数(数値が高いほど衝撃を吸収し易い)である。従って、原点から遠いほどユーロの最適通貨圏に適合し、原点に近いほど最適通貨圏から外れることになる。赤い線はベックワースが仮想的に引いた境界線であるのでそれほど厳密なものでは無いが、ギリシャは最も原点に近いので、いずれにせよ分析対象国の中で最適通貨圏から最も遠い位置にいることが分かる。


また、ベックワースは、そもそも米国も最適通貨圏では無いのではないか、という議論もしている。ただ残念ながら、上と同様の図を用いてそれを示すことはしていない。


そこでふと気になったのが、日本についてベックワースの手法を用いて図を描画したらどうなるか、という点である。日本はさすがに最適通貨圏と思われるが、その中でも都道府県によってバラツキがあるのだろうか? ということで、ベックワースの手法を(簡略化した上で)日本に適用してみた。


次の図は、県民経済計算を用いて、縦軸に各県の実質経済成長率の相関係数、横軸にデフレータ変化率の相関係数を取って、散布図を描画したものである*1相関係数の対象は、「全県計」とした。参考のため、米国について計算した値も併せて掲載した*2。また、赤い線は、半径1の円弧であり、仮想的な境界線として描いてみた。

これを見ると、やはり米国が原点に最も近いのは当然ながら、沖縄も円弧の内側に来ている。これは、沖縄が米国の占領下にあった時期も含めていることが影響していると思われる。そこで、今度は、期間を1986年以降に絞って描画してみた。

この図では、沖縄はほぼ境界線上に位置し、むしろ和歌山や茨城が沖縄よりも内側に来ている。また、沖縄の次に境界線に近いのは高知、次いで青森である*3。即ち、直近の20年程度においては、日本で最も最適通貨圏から遠いのは和歌山であり、次いで茨城であって、沖縄は3番目、というやや意外な結果が得られたことになる。ただ、その和歌山でも、米国よりはかなり最適通貨圏に近いことには注意しておく必要がある。


なお、相関係数の対象として、「全県計」の代わりに通常の日本のSNAの値を使うと、結果が若干変わってくる。参考のため、そちらを用いて描画した結果も以下に示しておく*4


こちらでは、全期間で茨城が赤線の内側に来たほか、1986年以降では高知が内側に来ている。

*1:1956-1974年度は1980年基準の68SNA(実質成長率デフレータ変化率)、1976-1996年度は1990年基準の68SNA(実質成長率デフレータ変化率)、1997-2007年度は2000年基準の93SNA(実質成長率デフレータ変化率)を用いた(1975年度はデータが取得できなかった)。また、1990年基準の68SNAでは、1976-1980年度の福島県、1976-1977年度の埼玉県、1976-1985年度の岡山県、1976-1981年度の沖縄県のデータが欠落している。その結果、1976-1985年度の「全県計」のデータも欠落している。

*2:ソースはBEA(米商務省経済分析局)のサイト(実質成長率デフレータ変化率)。なお、米国の暦年と日本の年度の調整は行なっていない。

*3:原点からの距離を計算すると、沖縄が0.998、高知が1.017、青森が1.034。和歌山は0.718、茨城は0.949、米国は0.556である。

*4:1956-1980年度は1990年基準の68SNA(実質成長率デフレータ変化率)、1981-2007年度は2000年基準の93SNA(連鎖方式;実質成長率デフレータ変化率)を用いた。