生産性は賃金を引き上げるか? 産業別データによる実証結果

BOEブログに産業別の生産性と賃金の関係を分析した表題の記事が上がっている(原題は「Does productivity drive wages? Evidence from sectoral data」)。そこでは、3つの設問に対してデータから回答を試みている。

  1. 生産性の高い産業は賃金も高いか?
    • エス。産業間の実質生産性と実質賃金の相関は、賃金の実質化にCPIを用いた実質賃金(real consumption wages=RCW)と産業別価格デフレータを用いた実質賃金(real product wages=RPW)のいずれにおいても、常にプラスである。
  2. 生産性成長率が高い産業は賃金成長率も高いか?
    • 生産性の成長は産業ごとのばらつきが大きく、年率成長率の標準偏差は、低下傾向にあるものの、平均して約6%ポイントになる。
    • 生産性成長率と実質賃金の相関は、RCWについては無きに等しい。
    • RPWとの相関は、期間の大半において概ねプラスになり、平均0.25となる*1。その場合のベータは0.33である。即ち、生産性成長率の1%の上昇が実質賃金成長率のおよそ0.3%の上昇につながる。この係数は上昇傾向にある。
    • 産業全体のレベルでも、RPWの方が生産性成長率との相関が高い。これは、RCWの伸びが生産性以外の要因で動いていることを示している。そうした要因の例としては、小売価格に影響する為替相場が考えられる。
      • このことは、「実質賃金抵抗」(輸入価格の上昇による生活費の上昇が生じると、労働者が実質所得維持のための名目賃金引上げを求めるという考え)の役割が限定的であることを示している。
      • この相関はまた、ある産業における生産性の上昇は、相対的な名目賃金の上昇(ひいては相対的なRCWの上昇)によってではなく、相対的な生産価格の低下によってRPWを引き上げることを示している。それは全産業のRCWの上昇につながるため、生産性上昇の恩恵は全体に波及する。一方、生産性上昇が当該産業の雇用喪失につながるならば、費用は全体に波及しない。
  3. 生産性成長率は産業レベルの賃金成長率を予測するのに役立つか?
    • あまり役立たない。生産性成長率はその後の賃金成長率と産業のクロスセクションでは正の相関があるものの、単純なARモデルの予測精度を改善するだけの付加価値はもたらさない。賃金ショックと生産性ショックのクロスセクション相関を見た場合、どちらかといえばむしろ賃金が生産性に先行している。
    • グレンジャーの因果性検定でも、賃金が生産性に先行するという結果が得られる産業のほうが多い(ただしそうした産業も全体の半数以下にとどまる)。
    • この結果は、賃金と生産性の間の以下の2つの関係と整合的である。
      1. 労働供給もしくは他の産業の動向によって賃金が変化し、それに適応するため各産業が(資本集約度を高めるなどして)生産性を変化させる
      2. その産業への需要に対するショックがまず賃金に波及し、その後生産性が反応する

*1:cf. 6日エントリで紹介した賃金実質化のデフレータの問題。