米国でのバラッサ=サミュエルソン効果

一昨日のエントリで、日本ではバラッサ=サミュエルソン効果の前提となる労働市場での賃金の収束が生じていないのではないか、という主旨のことを書いたが、それに対し、他の先進国ではどうか、というはてぶが付いた。そこで取りあえず、データが労働統計局の雇用関係のページから簡単に手に入る米国について、同様のグラフを描いてみた。具体的には、そのページの「Tables from Employment and Earnings」のところでリンクされている業種別の人数給与のデータをグラフ化した。


まずは業種別の週給(単位:ドル)。データは1964年以降。

次に、業種別の人数(単位:千人)。データは1960年以降なので、こちらの方が給与より少し収録開始期が早い。


給与の推移を見ると、近年においても日本ほどのばらつきは見られない。また、製造業が全業種でトップクラスというわけではなく、鉱業・木材伐採業と建設業が、危険度を反映してか、一貫して製造業を上回っている。そのほか、情報産業も一貫して製造業より高い。
レジャー・宿泊業に出遅れ感があるのが目立つが、製造業に対する相対的な賃金は実はほとんど変化していないか、むしろ微増している。このことは、1964年と2009年の各時点において製造業を100に基準化した相対賃金を描いてみると明らかになる(下図)。

これを見ると、1964年時点で製造業を下回っていた業種すべてが、2009年には相対的に上昇したことが分かる。以前、米国においても製造業が輸出の主役であったし、これからもそうあり続ける、というディーン・ベーカーの論説を紹介したことがあったが、その言を信じるならば、米国ではバラッサ=サミュエルソン効果は健在、と言って良さそうである。


ただ、従事人数を見ると、日本と同様、製造業の最近の低下が目立つ。代わりに増加しているのは貿易・輸送・公益、教育・医療、専門・企業サービスといったところだが、意外にも政府部門も増加している。即ち、政府部門による直接雇用が、産業の構造変化における受け皿として重要な役割を果たしたことが伺える。なお、賃金データの方には政府部門が出てこないので、給与面で見た政府部門の相対的地位は不明である。
ちなみに、一昨日のエントリで取り上げた日本の国税庁のデータも、あくまでも民間が対象なので、政府部門の給与は分からない。ただし、従事人数については総務省統計局の労働力調査の長期時系列データのページから拾うことができる。その第10回改定日本標準産業分類別雇用者数の推移を描画すると、以下のようになる*1

これを見ると、日本では政府の直接雇用が受け皿として果たした役割は限定的であったことが分かる。

*1:1972年以前は沖縄含まない。