2009-09-01から1ヶ月間の記事一覧

作家の話術

「作者と作品は別もので、作品がすべてで作者はカスであることもあり、作品と作者は似ても似つかぬものであることもあって、作者を知ることは作品の理解をさまたげることが多いのである」 …とかつて山本夏彦は述べたとのことだが、それに呼応するようなエッ…

排出権オークション収入と減税の抱き合わせは是か非か?

昨日紹介したマンキューの主張について、アパラチアン州立大学教授のジョン・ホワイトヘッド(John Whitehead)がブログで異議を唱えている(Economist's View経由)*1。 昨日のエントリから、ホワイトヘッドの批判の対象となっているマンキューの主張を引用…

コント:ポール君とグレッグ君(2009年第13弾)

それは特長でなくバグでんがな グレッグ君 ポール君が温暖化対策法案についてブログで書いたことは概ね正しいと思う*1。ただ、公益企業は利益が規制されているので、排出権の初期割り当て分のレントが価格低下という形で消費者に還元される、と書いているの…

すべてのミクロ経済学はセーの法則もワルラスの法則も間違えている

少し前にNick Roweがそう書いている。以下に彼の主張をざっとまとめてみる。 次の命題は2年生レベルのミクロ経済学だが、間違っている。 n個の財(貨幣があればそれを含む)が存在する場合、効用関数U( X1, X2, ... Xn )を Σ[P(X-E)]=0 という制約条件下で最…

インターネットによって消滅しつつあること

テレグラフに「インターネットによって消滅しつつある50のこと(50 things that are being killed by the internet)」という記事が上がっていた(The Big Picture経由)*1。 以下はその抜粋。 1) 礼儀正しい不同意の技術 YouTubeの中身の無いコメントが代表…

コクランの議会証言

ある意味“渦中”のジョン・コクランが9/24に議会証言をした、というので、すわ、昨日紹介したコランダーへの反論か、と思ったら、さにあらず、金融危機に関する話だった(相手も下院金融サービス委員会)。 ただ、手頃な長さなので、以下に内容をざっと紹介し…

コランダーの議会証言

デビッド・コランダー(David Colander)というミドルバリー大学教授*1が、9/10の下院科学技術委員会で経済学の現状を痛罵する証言を行なった(Economist's View経由)*2。 以下にその内容を簡単にまとめてみる。 はじめに 1年前に米国経済は金融の心臓発作…

銀行分割すべしは経済学界の総意

9/11のワシントンブログに、債務不履行に陥った大手銀行を分割しなければ経済は回復しない、と主張している経済学者や金融専門家の一覧が挙げられていた(The Big Pictureでもリンクを張っている)。 以下がそのリスト。 ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ…

七人のエコノミスト侍…(違

と題したエントリ*1で、デロングがシカゴ派の7人衆の論説を引用した上で撫で斬りにしている。 以下はその拙訳。 セントルイスのワシントン大学のデビッド・K・レビン 貴君(ポール・クルーグマン)に過去四半世紀の経済学の発展を教え込むのは至難の業だ。ジ…

デロングのコチャラコタへの疑問

昨日のエントリに通底する疑問を、デロングがコチャラコタに投げ掛けている。 デロングはコチャラコタのことを「大変頭が切れる(very sharp)」と評価しつつも、「現状の擁護者で、今の状況は基本的に問題ないと考えている(Narayana Kocherlakota is a def…

ギ・ソルマン「仲良く落ちていく日本」

Economist's View経由で、林・プレスコット研究を額面どおりに受け取ったフランス人学者ギ・ソルマン(Guy Sorman)の論説を見つけた。 以下はその冒頭部。 Forget what you have heard about the hard-working Japanese salaried workers: since the early …

人口とGDP

ちょうど1年前に、実質GDPと消費や投資との散布図を描いて、90年以降の日本経済が壁にぶつかったような動きをしていることを示した。今度は、GDPと人口の関係を見てみようかと思う。 今回、人口と経済の関係を改めて考えてみようと思った理由は、以前書いた…

コチャラコタのマクロ経済学に関する10の考察

米国でマクロ経済学を巡る論議が活発になっている。その台風の目となったのは、クルーグマンのNYタイムズ記事(邦訳はこちら)だが、シカゴ大学のジョン・コクランがそれに感情的なまでに反発した反論を書いて、騒ぎがさらに大きくなった。この論争に関連す…

金融版 悪魔の辞典

昨日に続きThe Big Pictureのエントリから。 バリー・リソルツ(Barry Ritholtz)がウォール街版の悪魔の辞典の一部を紹介している(ソースはWSJ記事だが、そちらは登録ユーザーしか読めない)。 トリプルA 名詞、死語。住宅に見せかけた掘っ立て小屋に裏打…

金融危機に関する5つの神話

The Big Pictureの9/14エントリで、バリー・リソルツ(Barry Ritholtz)が金融危機に関する5つの神話を“喝破”している。 神話1 危機は稀な出来事が重なった「パーフェクト・ストーム」だった。 実際にはその逆で、危機は不可避だった*1。それは、過剰流動性…

リーマン破綻は金融業界にとって最も幸運な出来事だった

とNYタイムズのジョー・ノセラ(Joe Nocera)記者が書いている。 以下はその記事「国際金融が生き延びるためリーマンは死なねばならなかった(Lehman Had to Die So Global Finance Could Live)」からの抜粋。 For all of these reasons and more, former L…

条件付き確率破れたり

コロンビア大学の統計学者のアンドリュー・ゲルマンが、直近の9/12ブログエントリで、二重スリット実験と条件付き確率の関係を論じている(Economist's View経由)。 具体的には、以下のように量子力学の二重スリット実験を描写し、そこでは条件付き確率の法…

もう一つのリーマン危機

IT業界に身を置く者なら、誰もがこのNaked capitalismのエントリは身につまされるのではないだろうか。 以下はその拙訳。 もう一つのリーマン危機:誰もソフトを動かせない 今も有効な数字かどうかは知らないが、オコナー&アソシエイツ*1で働いていた時、IT…

なぜ経済学者はFRBを批判しないのか?

――それはFRBが経済学者に「言論統制」をかけているからだ、というライアン・グリム(Ryan Grim)による9/7のハッフィントンポスト記事が話題になっている。 以下はその冒頭部。 The Federal Reserve, through its extensive network of consultants, visitin…

みんな格付け会社が悪いんや

9/7エントリで紹介した金融イノベーションに関する論議に、Economics of Contemptブログ氏が、素人談義だと物言いを付けている。 Economics of Contemptブログについて簡単に紹介しておくと、本ブログでこれまでここ、ここ、ここで取り上げたことがあったが…

セイビング・キャピタリスト・フロム・キャピタリズム

マンキューがこの本のタイトルをもじったエントリを上げた。内容は、同書の著者の一人であるジンガレスの論説へのリンク。マンキューは、その論説の最後の段落のオバマ批判部分のみ引用しているが、むしろその前が面白いので、以下に内容を簡単にまとめてみ…

ニッポンの医療保険は(Wow×4)米国が羨む(Yeah×4)

ちょうど10年前の今日に発売されたこの曲のフレーズをもじったタイトルにしてみたが*1、ディーン・ベーカーが9/7のブログエントリで、同日のワシントンポストの記事を引きながら、日本の医療保険制度を称賛している。 ベーカーが特に気に入ったのは、記事中…

金融危機の5つの教訓

WSJブログにそう題されたエントリが上がっていた。出所は、アルゼンチン中銀で開かれた会議でのモルガン・スタンレーのリチャード・バーナー(Richard Berner)氏のプレゼン資料を、顧客向けメモで補足したもの。以下がその5つの教訓。 強靭で良く規制された…

良い金融イノベーション、悪い金融イノベーション

フェリックス・サーモンが、サイモン・ジョンソン&ジェームズ・クワックのデモクラシー誌記事を受けて、良い金融イノベーションと悪い金融イノベーションについて書いている。俎上に乗せたのは以下の3つの金融イノベーションで、それらについてサーモンはジ…

コント:ポール君とグレッグ君(2009年第12弾):雑感

昨日のエントリについて個人的に考えたことを記しておく。 マンキューの考えの問題点は、必要条件と十分条件の混同にあるように思われる。即ち、高収入の人には確かにIQの高い人が多いだろう。だが、IQの高い人が高収入とは限らないのではないか? その点を…

コント:ポール君とグレッグ君(2009年第12弾)

今回はマンキューのポストがクルーグマンだけではなくあちこちで波紋を呼んだ。 グレッグ君 NYT Economixブログで高所得の家庭の子供の平均SATスコアが高いという図が示されたけど、まったく驚くに値しないね。このグラフは、僕の教科書の第2章に書かれてい…

FRBは儲かっている?

FRBとFDICが金融規制改革を巡ってつばぜり合いを繰り広げていることを本ブログで以前紹介したが、先週、ほぼ同時に両者の財務状況に関する記事が出ていた。 まず、FRBに関するWSJ記事はこちら。商務省経済分析局のレポートを元に、FRBの利益が上昇しつつある…

債務はなぜ増えるのか Part III

一昨日、昨日に続き、債務の増加に関するWCIブログのNick Roweの考察を紹介する。第2弾では貨幣を導入したが、第3弾では銀行を導入し、それが債務増加に果たす役割を論じている。 部分準備銀行はペン一つで信用創造ができる。しかし、以下の理由により無限に…

債務はなぜ増えるのか Part II

昨日に続き、債務の増加に関するWCIブログのNick Roweの考察を紹介する。第2弾では、金融政策と債務増加の関係を論じている。 前回の議論については、通貨供給を無視している、というコメントが多く付いた。通貨供給の増加は貸し出しの供給を増やす、と。し…

債務はなぜ増えるのか Part I

昨日に引き続き、WCIブログのNick Roweのエントリをご紹介する。今度は、彼が債務が増加するメカニズムを考察した三連作を取り上げてみる。 本日紹介するのは、その第一回。ここで彼は、低金利が債務を増加させるという常識に挑戦している。 「低金利が人々…