もう一つのリーマン危機

IT業界に身を置く者なら、誰もがこのNaked capitalismのエントリは身につまされるのではないだろうか。


以下はその拙訳。

もう一つのリーマン危機:誰もソフトを動かせない


今も有効な数字かどうかは知らないが、オコナー&アソシエイツ*1で働いていた時、IT部門のトップ(オコナーのIT部門は優れていた)は、ソフトウエアのドキュメンテーション(開発者が第三者がメンテナンスできるくらい詳細に自分のやったことを記述すること)のコストは20%増しだと言っていた。トレーダーにそのコストを支払わせるのはとても難しかったが、皮肉にもそれは費用の額の問題ではなく、IT部門のリソースの制約の問題だった。プログラマーが事業部門の緊急の必要に応えるのではなく、紙の記録を残すために多くの時間を使うということを彼らに納得させるのは難しかった。


しかし、リーマンでの出来事は、ドキュメンテーションを省略するというあらゆる場所で見られる慣行がどういった結果をもたらすかを教えてくれる。もちろん、現在のウォール街でのITは、カスタムの開発を減らして既製品の使用を増やすことになっている。しかし、このFT記事からは、そのことは窺い知れない:

デリバティブのポジションを解消するというのは、状況が良い時でも複雑な作業だ。リーマンにおいては、最も複雑なデリバティブ市場のいくつかで最大ディーラーの一つだったので、その作業はより大変なものとなる。リーマンが破綻した時、その全世界のデリバティブの帳簿には、8,000の異なる取引相手との名目額面値で39兆ドルの契約が記載されていた。デリバティブ事業は実際にはいくつかに細分化されていて、20から30の異なるシステムに支えられていた。


会社が破綻した途端、それらのシステムを支えていた職員は「蒸発しました」、とリーマン・ブラザーズ・ホールディング社のためにデリバティブのポジション解消作業を行なっているプライシングとバリュエーションを専門とするNumerix社のスティーブ・オハンロン社長は語る。


「時間が経つにつれ、これらのシステムを担当する人々の把握力は弱まっていきました」とオハンロン氏は言う。彼は、リーマンの仕事からデリバティブについて学んだことを、戦争からの学習に喩える。「医療産業は戦争のたびに進歩しました。何百、何千という処置を非常に短時間に行なわねばならなかったので。」


ここまでの主な結論――リーマンのポジション解消には細部にも多くの興味深いことがあるのだが――は、デリバティブのIT面のコストは過小評価されてきた、ということだ。それに加えて、銀行のリスクエクスポージャーの水準について、すべての規制当局者が欲し、すべての投資家が要求すべき回答は、現在のポジションを評価し追跡する複層的なシステムからは簡単に入手することができない。


デリバティブ事業について以前は隠されていたコストの多くは、複数に分岐したシステムに対する技術サポートも含め、もはや無視できなくなりました」と、NYのリーマン・ブラザーズ・ホールディング社のリュック・フォシュー常務は言う。


リーマンのデリバティブ取引の解消は、規制当局者がどのように金融市場を改革すべきかについての格好の教材になるのかもしれない。

*1:現UBS