――それはFRBが経済学者に「言論統制」をかけているからだ、というライアン・グリム(Ryan Grim)による9/7のハッフィントンポスト記事が話題になっている。
以下はその冒頭部。
The Federal Reserve, through its extensive network of consultants, visiting scholars, alumni and staff economists, so thoroughly dominates the field of economics that real criticism of the central bank has become a career liability for members of the profession, an investigation by the Huffington Post has found.
This dominance helps explain how, even after the Fed failed to foresee the greatest economic collapse since the Great Depression, the central bank has largely escaped criticism from academic economists. In the Fed's thrall, the economists missed it, too.
"The Fed has a lock on the economics world," says Joshua Rosner, a Wall Street analyst who correctly called the meltdown. "There is no room for other views, which I guess is why economists got it so wrong."
One critical way the Fed exerts control on academic economists is through its relationships with the field's gatekeepers. For instance, at the Journal of Monetary Economics, a must-publish venue for rising economists, more than half of the editorial board members are currently on the Fed payroll -- and the rest have been in the past.
Priceless: How The Federal Reserve Bought The Economics Profession | HuffPost(拙訳)
FRBは、そのコンサルタント、訪問研究員、OB、スタッフ・エコノミストといった広範なネットワークを通じて経済学という分野を完全に牛耳っているので、経済学を生業とする者が中央銀行に対し実質的な批判を行なうと経歴にマイナスになる、ということがハッフィントンポストの調査で明らかになった。
このFRBによる支配は、大恐慌以来最大の経済危機を予見できなかったにも関わらず、中央銀行が学界の経済学者からの批判を概ね免れたことの説明になっている。FRBの虜になっていたため、経済学者自身も危機を予見できなかった。
「FRBは経済学界をがんじがらめにしている」と危機を正しく予見したウォール街のアナリストであるジョシュア・ロスナーは言う。「異見が許されないので、経済学者はあれほど間違えたのだと思う」
FRBが学界の経済学者を支配する一つの重要な方法は、学界の門番との関係にある。例えば、Journal of Monetary Economicsは、売り出し中の経済学者にとっては論文を載せることが必須の雑誌だが、その編集者の半分以上はFRBから給与を貰っており、残りは過去に貰っていたことがある。
この記事が書かれるきっかけになったのは、Robert Auerbachテキサス大教授が昨年出版した「Deception and Abuse at the Fed: Henry B. Gonzalez Battles Alan Greenspan's Bank」(テキサス大のサイトはこちら)とのこと。その本の内容については、Auerbach自身がハッフィントンポストに同じ9/7に紹介記事を書いている。
グリム記事では、AuerbachによるFRBの経済学界支配を示す統計を引用しているほか、ミルトン・フリードマンからAuerbachに宛てた1993年の手紙の以下の一節も引用されている。
"I cannot disagree with you that having something like 500 economists is extremely unhealthy. As you say, it is not conducive to independent, objective research. You and I know there has been censorship of the material published. Equally important, the location of the economists in the Federal Reserve has had a significant influence on the kind of research they do, biasing that research toward noncontroversial technical papers on method as opposed to substantive papers on policy and results,"
(拙訳)
「500人もの経済学者を抱えていることは極めて不健全だという貴兄の意見に異を唱えることはできない。貴兄の言うとおり、それは独立した客観的な研究の助けにならない。貴兄も私も、出版に検閲があったことを知っている。同様に重要なことは、FRBにおける経済学者の立場が、彼らの行なう研究の種類に大いなる影響を及ぼし、政策とその結果に関する内容のある論文ではなく、論争の余地の少ない方法論に関する技術的な論文に研究のバイアスを掛けていることだ。」
さらに記事では、アラン・ブラインダーがグリーンスパンの意思決定方法に異論を差し挟んだ結果FRB副議長の座を僅か1年半で追われたエピソードや、クルーグマンがグリーンスパンと衝突*1して以来ジャクソンホールのコンファレンスに招かれなくなったエピソードに言及している。
クルーグマンのエピソードに関するくだりを以下に引用しておく。
And celebrity is no shield against Fed excommunication. Paul Krugman, in fact, has gotten rough treatment. "I've been blackballed from the Fed summer conference at Jackson Hole, which I used to be a regular at, ever since I criticized him," Krugman said of Greenspan in a 2007 interview with Pacifica Radio's Democracy Now! "Nobody really wants to cross him."
An invitation to the annual conference, or some other blessing from the Fed, is a signal to the economic profession that you're a certified member of the club. Even Krugman seems a bit burned by the slight. "And two years ago," he said in 2007, "the conference was devoted to a field, new economic geography, that I invented, and I wasn't invited."
Three years after the conference, Krugman won a Nobel Prize in 2008 for his work in economic geography.
(拙訳)
知名度もFRBからの破門の盾にはならない。実際、ポール・クルーグマンは手荒い扱いを受けた。「彼を批判して以来、それまで常連だったFRBのジャクソンホールでの夏のコンファレンスから追放されました」とクルーグマンは2007年のPacifica RadioのDemocracy Now!でのインタビューでグリーンスパンについて語っている。「皆彼を怒らせたくないと思っているのです」
年次コンファレンスへの招待や、その他のFRBからの祝福は、経済学の職において、倶楽部の一員になったという証である。クルーグマンでさえ、この仕打ちに少し凹んだようだ。「そして2年前」と彼は2007年のインタビューで述べている。「コンファレンスのテーマは、新しい経済地理学という分野でした。その分野は私が開拓したものですが、私は招かれなかったのです」
コンファレンスの3年後、クルーグマンは経済地理学の業績により2008年のノーベル賞を受賞した。
Naked Capitalismのイブ・スミス、Econlogのデビッド・ヘンダーソンは、このハッフィントンポスト記事を肯定的に評価している。
一方、Angry Bearのロバート・ワルドマンは、9/10エントリで、Journal of Monetary Economicsが経済学者の登竜門というところで読むのをやめた、と一蹴した後、9/11エントリでより詳細に反論している。彼の記事への批判のポイントは以下の3点。
- FRBの桎梏下にあると報告されている雑誌に、American Economic Review, Quarterly Journal, Econometrica, The Review of Economic Studies, The Journal of Economic Theoryといった一流誌が含まれていない。一方で、2009年に創刊された雑誌が含まれているが、それに2008年の危機の予見の責を負わせるのは酷。
- Journal of Monetary Economicsがミネアポリス連銀の影響下にあることを問題視しているが、それは地区連銀がFRBの中央集権的な統制下にあることを前提にしている*2。
- 記事では、FRBの支配下にある経済学者グループを「金融経済学者(monetary economist)」と称しているが、それは、マクロ経済学者やファイナンス経済学者と独立したグループとして存在しない。その半面、記事が引用しているFRBの批判者のうち金融経済を専門とするものは(故フリードマンを除いて)いない。