FRBは儲かっている?

FRBFDICが金融規制改革を巡ってつばぜり合いを繰り広げていることを本ブログで以前紹介したが、先週、ほぼ同時に両者の財務状況に関する記事が出ていた。


まず、FRBに関するWSJ記事はこちら。商務省経済分析局のレポートを元に、FRBの利益が上昇しつつあることを報告している。
同レポートの表12の該当の数字は以下の通り。

2006 2007 2008 四半期 2008Q2 2008Q3 2008Q4 2009Q1 2009Q2
33.8 37.7 35.7   31.1 34.6 41.1 28.8 46.1
対前期差   3.9 –2.0     3.5 6.5 –12.3 17.3

(単位:10億ドル、四半期ベースは季調済み年率換算値)


これを見ると2009年第2四半期は461億ドルで前年同期比48%増であり、AIGやらベアスターンズやらの不良債権を抱え込んでいる割には悪くないではないか、というのが記事の評価である。また、その増益の理由としては、信用緩和政策により取得したMBSやCP、および銀行への緊急融資からの利子収入を挙げている。

ちなみに、FRB自身のレポートによると、上半期の収益は164億ドルだったとのこと。ベースが違うので数字の単純比較はできないが*1、商務省のレポートを見ると、第1四半期があまり良くなかったのに対し、第2四半期で伸びたことがわかる。



一方、FDICについてのFT記事はこちら。この記事によると、問題銀行の増加を反映して、状況は決して芳しくない。FDICのウォッチリストに載っている問題銀行の数は、今年第1四半期の305から第2四半期には416に急増したという。一方、保険対象銀行全体のパフォーマンスを見ると、第2四半期には37億ドルの損失を計上したとの由。

こうした環境の中、預金保険基金の状況も悪化している。それについてFT記事はこのプレスリリースの記述を引用しているが、むしろベア総裁自身の説明を掲載したこちらのプレスリリースの方が図解付きで分かりやすい(上述の問題銀行の数や業界全体の損失の時系列推移の図も乗っている)。

その最後の図(以下に転記)を見ると、預金保険基金(Deposit Insurance Fund=DIF)の現在の状況が一目瞭然である。

第2四半期の負債や準備金を除いた基金残高(Fund Balance)は104億ドルとなっており、第1四半期の130億ドルから26億ドル減少している。その変動要因については、この四半期レポート(Quarterly Banking Profile;以下QBPレポートと表記)の表1-Bに詳細が記載されているが、主なところでは、損失引当金(Provision for insurance losses)による減少が116億ドル、通常ならびに特別の保険料(assessment)徴収による収入が91億ドルとなっている。
この基金残高を保険対象預金全体で割った指標はDIF Reserve Ratioと呼ばれるが、QBPレポートによると、直近の数字である104億ドル÷4兆8177億ドル=0.22%は、1993年第1四半期の0.06%*2以来最低であるとのこと。


ただ、上図に示されている通り、預金保険基金には216億ドルの現金と国債があるほか、財務省から最大5000億ドル借り入れることができるので、破綻の心配は無い、とベアは会見で強調している*3


QBPレポートよると、2009年第2四半期に破綻した保険対象金融機関は24行で、その合計資産は264億ドル。これは1992年第4四半期の42行以来の数字だという。2009年上半期では45行、総資産359億ドルで、DIFへの負担は105億ドルとの由。


なお、財務の詳しい状況は、まだ第1四半期までしか出ていないが、こちらのサイトで見られる。
ベアによると、バランスシートの負債項目のうち、「将来の破綻に備えた偶発債務」(「Contingent Liabilities: future failures」;ベア会見資料では「contingent loss reserve」と表記)が基金残高と共に損失準備を構成するという。その「将来の破綻に備えた偶発債務」は、ベアの会見資料によると、第1四半期の285億ドルから第2四半期には320億ドルに増えている*4。上述の引当金116億ドルの一部がその増加に充てられたものと思われるが、上記のサイトのたとえば第1四半期の全体資料を見ても、引当金の各負債項目への割り振り状況までは記述されていないようである。
ちなみに財務の費用支出に関する資料を見ると、「Travel」が大きなウェイトを占めていることに気付く(2009年第1四半期で1659万ドル)。kmoriさんのこの記事と照らし合わせてみると興味深い。

*1:商務省のデータから上半期の値を推計すると、(288+461)/4=187.25億ドルとなる。

*2:ただし当時は銀行保険基金(BIF)と貯蓄組合保険基金(SAIF)に分かれていたので、これはその合算値。

*3:追記:ただ、財務省からの借り入れを実際に実施するとなるとFDIC総裁の責任問題が出てくるのではないか、という気が個人的にはする。ましてや今のベア総裁とガイトナー財務省長官の間は不仲が噂されるので…。だからこそ特別保険料の徴収で何とか凌ごうとしているのだろう。ちなみにこのブログ記事では、財務省側ももう余力が無いのではないか、と推測している。

*4:ちなみにベア資料では2008年第4四半期は224億ドルとなっているが、これは監査前の数字で、監査後の数字は240億ドル。