中央銀行の外債購入を巡る騒動

といっても、日銀のことではなく、スイス国立銀行の話。


本石町日記さんのツイート経由のFT Alphaville記事で知ったが、S&Pがスイス国立銀行がユーロ中核国の国債を800億ユーロ買い入れたというレポートを出し、同銀行がそれを否定する、という騒ぎがあったらしい(ぐぐってみると、ロイター日本語記事でも報じている)。


FT Alphaville自身(David Keohane)は、S&Pの800億ユーロは過大にしても、400億ユーロは買い入れたのではないか、と推計しているクレディスイスは300-350億ユーロと推計しているとの由。


そして、(本石町日記さんがリンクした)後続記事では、外貨準備によるこうした高格付け債の買い入れが全般的な担保不足を招くのではないか、という懸念について考察したJPモルガンのレポートを紹介している。それによると、その心配はあまり無い、とのことである。というのは:

  • 2008年以降、世界の外貨準備は3兆ドル増加したが、AAA/AA債は9兆ドル増加した。即ち、供給される高格付け債のかなりの部分を外貨準備が吸収しているにしても、その割合は半分に満たない。
  • 外貨準備が購入した国債は、金融システムから引き揚げられるわけではない。外貨準備のマネージャーは証券貸出市場のビッグプレイヤーであり、証券保管に係るカストディアン費用を貸し出しによる収益で相殺しようとするだろう。

Keohaneは、こうしたことから、S&Pが指摘するようなスイス国立銀行による該当国債金利引き下げ効果も限られるのではないか、ということを(間接的な表現ながら)示唆している。


さらにKeohaneでは、シティのレポートから、そもそも外貨準備の積み上げにつながったスイスフラン高抑制のためのユーロ購入も、最終的には為替損失にはつながらないかも、という試算を示している。というのは、2011年8月以降に購入したユーロの損益分岐点は1ユーロ=1.1880フランであり、防衛ラインの1.2フランを下回っているから、とのことである。ただし、2009年以降で見ると損益分岐点は1ユーロ=1.2920フラン、2010年以降では1.2660フランであるが、為替損失を回避するため、スイス中央銀行はユーロがそこまで戻るのをじっくり待ってから巻き戻すのではないか、とのことである。
なお、この点について同記事のコメント欄では、為替損失ないし利益の話をここで持ち出す意味が分からん、という批判的なコメントが付き、Keohaneは、ご指摘の通りそれは2次的な話であってスイス国立銀行が重視する点ではないし、本記事の主眼はあくまでも同銀行が保有する証券の話にある、と弁明している。