債務はなぜ増えるのか Part III

一昨日昨日に続き、債務の増加に関するWCIブログのNick Roweの考察を紹介する。第2弾では貨幣を導入したが、第3弾では銀行を導入し、それが債務増加に果たす役割を論じている。

  • 部分準備銀行はペン一つで信用創造ができる。しかし、以下の理由により無限にはできない。
    1. 自己資本比率の維持
    2. 準備預金
      • 銀行がある程度準備預金を持とうと思うか、人々がある程度現金を持とうと思うと、信用創造に制限が課せられる
        (cf. このエントリ貨幣乗数。α>0もしくはβ>0ならば、貨幣乗数は無限にはならない)。
    3. 収益性
      • ここではこの制約を追究する。
  • 第2弾で紹介したモデルに銀行を導入する。さらに以下の仮定を置く。
    • 貨幣ストックは一定で、経済の実質成長はない。従って、インフレ率はゼロ。貨幣金利は実質も名目もゼロ。
    • 負債には正の金利が付く。
    • 銀行預金は貨幣の代替になり得るが、負債は貨幣の代替にならない。そのため預金金利が負債金利より低くても、人々は預金を保有しようとする。
    • 銀行は金利スプレッドで収益を得る。銀行は収益最大化を目的とするので、そのスプレッドが限界費用に等しくなるまで銀行は貸し出しと預金を拡大する。
  • この時、赤リンゴの栽培者から緑リンゴの栽培者への貸し出しの一部は、銀行を介するようになるだろう。しかし、それだけでは負債は増加しない(1ドルが2回負債としてカウントされるようになること[銀行の負債+最終的な借り手の負債]を除く)。
  • このモデルで、銀行の仲介が入ることによって債務が実質的に増加するのは、以下のメカニズムが働くためと考えられる。
    • 貸し手から見ると、直接のローンよりは銀行預金の方が魅力的。というのは、債権と違って預金には交換媒体の機能があるので。
    • そのため、貸し手は直接貸し出しの場合よりも低い金利を受け入れる。
    • 金利が低ければ、借り手はより多くを借りるようになる。
  • つまり銀行は、貸し借りの取引に掛かる非流動性という賦課を取り除くことにより、そのコストを低め、債務を増加させる。
    (前提:貸し手/借り手が流動性金利に感応的であること)
  • ただしそれは、価格が柔軟に動く場合の長期の効果。価格が固定された短期の効果はどうか?
  • 価格固定の短期の銀行導入効果は、銀行の管理費用が低下したことを想定することによって把握できる。中央銀行が不胎化しなければ、通貨供給が拡大し、産出と雇用が増加する。これは第2弾で論じたところである。
  • 中央銀行が不胎化によって総需要の増加(ひいては価格の上昇)を抑える場合には、銀行は利益最大化のために貸し出しと預金を拡大しようとする。そのため貸出金利を引き下げ、借り入れ(預金)金利を引き上げる。これによってやはり貸し出しと借り入れは活発化し、債務は増大する。