少し前にNick Roweがそう書いている。以下に彼の主張をざっとまとめてみる。
次の命題は2年生レベルのミクロ経済学だが、間違っている。
- n個の財(貨幣があればそれを含む)が存在する場合、
効用関数U( X1, X2, ... Xn )を Σ[P(X-E)]=0 という制約条件下で最大化する。
それをすべての人について集計することにより、n個の超過需要の合計はゼロであることが分かる。
これが間違っている理由は、n個の財が存在することからn個の超過需要が存在すると仮定していることにある。しかし、超過需要とは特定の財の特定の市場におけるものであり、n個の財があるからといって、市場もn個あるとは限らない。従って、超過需要もn個あるとは限らない。
貨幣経済では、n-1個の非貨幣の財それぞれについて市場がある。各市場では、ある非貨幣財と貨幣という、2つの財が取引される。従って、超過需要の数は2(n-1)個である。
交換経済では、nC2=n(n-1)/2個の市場がある。各市場では2個の財が交換される。従って、超過需要の数はn(n-1)個である。
n個の財がn個の超過需要に結びつくのは、中央集約型=ワルラス型の仲買人がいる場合のみである。そこでは、1つの市場において、n個の財の需給が同時に付け合わされる。しかし、現実にはそんな市場は存在しない。
価格が市場を清算する水準に無い場合、買い方は数量制約下にある(=買いたいだけ買えない)。ある市場の数量制約は別の市場の需要に影響する。従って、以下のように考えるのが正しい:
- 現実の市場を見定める(貨幣経済、それとも交換経済?)
- 各市場について、効用関数最大化により、2つの財の需要を計算する。その際、財政制約だけでなく、他のすべての市場の数量制約も制約条件になる。
たとえば、n-1個の市場から成る貨幣経済においては、n-1の相異なる最大化問題がある。各最大化問題においては、他の市場の数量制約のもとで効用関数を最大化するので、それがセーの法則やワルラスの法則のような全体の整合性を満たす形になるのは、万に一つの偶然である。
労働を例に取ろう。ケインズ型の不況での失業者は、自分の労働を月1000ドルで売ろうとして失敗に終わる。しかし、我々は彼がその得べかりし報酬1000ドルを別の市場で支出しようとして果たせないのを目撃することはない。また、その1000ドルを貯蓄しようとしていたかどうかも分からない。もし労働市場での彼の試みが成功に終わったら、そのこと自体が彼が他市場で何をしたいかに変化をもたらすだろう。
n-1個の相異なる最大化問題があるとは、n-1個の相異なる決定をする、ということである。それに対し、ワルラス型の中央集約市場では、決定は1つである。その場合にのみ、買いたい財のための支出は売りたい財のための収入に見合わなくてはならない。